uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

コカイン・ナイト / J.G.バラード

コカイン・ナイト (新潮文庫)

コカイン・ナイト (新潮文庫)

トラベルライターのチャールズ・プレンティスはコスタ・デル・ソルに降り立った。エストレージャ・デ・マルのナイトクラブ、クラブ・ナウティコの経営をまかされていた弟のフランクが、引退した映画プロデューサーのホリンガー邸に火をつけ、五人を殺害した容疑で逮捕されたのだ。
フランクがそんな犯罪を行う人間ではないと、チャールズは確信している。だがフランクは、自分が殺したのだと自白している。何か裏があるはずだと、コスタ・デル・ソルの人々を取材するチャールズ。コミュニティの中心人物であるテニスコーチのボビー・クロフォード、フランクと関係のあった女医ポーラ・ハミルトン等々、ひとびとは口をそろえてフランクが犯人であるはずはない、と証言。しかし真犯人については一様に、口をにごしてはぐらかす。
そんな中、チャールズは何者かの襲撃にあい、扼殺される寸前で命を拾う。死なない程度に首を締めるプロの手口によると思われ、それは何らかの警告、もしくはチャールズを彼らの領域へ誘う招待状であった。

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バラードの一般小説。というかミステリ。バラードらしい思弁的な筆致で、コカインが与える狂躁のような世界を描いている。コカインはアッパー系なので幻覚とかはない。覚醒剤と同様、精神を研ぎ澄まして攻撃性を増幅し、その一方で多幸感をもたらす薬物だ。
テーマになっているのは社会病理。若くして引退した人々が死人のように暮らすリゾート地。死者に生命を吹き込もうとした者がとった方法とは…生と死、暴力、セックス、ドラッグ。人間が持つ欲望、その病理的側面が鍵として浮かび上がる。冷静に考えてみれば荒唐無稽ではあるのだが、バラードの手にかかれば読者を引き込むなんて赤子の手をひねるがごとし。
そしてラストの救いのない着地。終盤以降はここに着地させるのだろうと予想はしていたが、実際に落とされてみると、作品中で作り上げた世界を大きく浮かび上がらせる効果があることを実感した。さすがだ。
最近読書量がかなり減っているが、その中ではここ1年でもっともおもしろかった。バラードの文章はわりと読みにくいのだが、じっくり読んでいくだけの価値はあった。