uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

日本怪奇小説傑作集(2)

日本怪奇小説傑作集 2 (創元推理文庫)

日本怪奇小説傑作集 2 (創元推理文庫)

人花 / 城昌幸

花作りに狂気ともいうべき情熱を持っていた友人が消息を断った。その直前まで彼が栽培していたのは、暗黒の女王とも言うべき美しい花。一片の日もささぬ暗闇のなか、動物体の融解によって生育する大輪の花である。

かいやぐら物語 / 横溝正史

精神を病み、海辺の別荘で療養していた男は、毎夜日課としていた海辺の散策で、二枚貝を笛にして吹いている美しい女を見かける。女は、男と同様に心神耗弱のため洋館に滞在していた青年医師と、肺を病んでいた令嬢の恋物語を語りだした。

海蛇 / 西尾正

断崖の上に建つ一軒家に滞在していた作家から、妻が受け取った手紙には次のように記されていた。
情欲の高ぶるままに夜半渉猟する癖のあった男は、どこからか女があらわれた女と関係を持つようになった。しかしその女は、海蛇の化生に違いないのである。化け物の弱点である脳天に五寸釘を指し、退治してしまうつもりである。

逗子物語 / 橘外男

妻を亡くした傷心から逗子に滞在していた男は、散歩を日課としていた荒れ寺で、主人とおぼしい子供と、使用人らしき女と老夫の三人が墓参りをしている場面を目撃した。その光景に心を打たれた男は、その墓を気にかけて毎日供物などするようになる。だが、土地の百姓らの話によると、それらは早世した女流ピアニストの忘れ形見と家僕で、すでにこの世の人ではないという。

鬼啾 / 角田喜久雄

岡っ引きの親分、清十郎の周囲に出没する謎の人物。骨と皮ほどに痩せて顔の半面が火傷、つねに杏子のにおいを漂わせている。男は教安寺から来たと吹聴して回っている。

幻談 / 幸田露伴

老人からの採話。
江戸のころ、無役小普請組の木っ端旗本に釣り好きの粋人がいた。その日も船頭の舟にのって釣りに出るが、坊主に終わってひきあげる途中、奇妙な光景に出会う。何かがひょいっと海面に出ては、またひっこむのだ。近づいてみるとそれは土左衛門で、見事な竿を手に握っていた。

妖翳記 / 久生十蘭

上流階級の令嬢に家庭教師として仕える学生。令嬢は美しい容貌を持ちながら、小動物を虐め殺したり、家人に対し嗜虐的な言動をするなど、サディスティックな嗜好を持っている。学生はそんな令嬢を恐れながらも、激しく惹かれている。

怪談宋公館 / 火野葦平

広東市に駐屯した軍が住居として接収した宋公館。蒋介石の腹心として私服を肥やした人物の屋敷だということだが、この屋敷には幽霊がたびたび出没した。

夢 / 三橋一夫

妻子を残して出征した男は、戦場で夢を見る。

木乃伊 / 中島敦

ペルシャ王カンビュセスがエジプトに侵入したときのこと。その旗下にパリスカスという陰鬱な田舎者がいた。エジプト軍を撃ち破ったペルシャ王は、さらに先王の墓を辱めようと、屍を掘り出すよう命じるが、墓所に近づくに従ってパリスカスの様子がおかしくなる。自分はもとエジプトのミイラだと言い出したのだ。

人間華 / 山田風太郎

天麻医師は、子供という形でしか愛の結果が残らないことに異をとなえる。というのも、彼の愛妻は、重い病でながいこと床に伏せっていたのだ。天麻はそれから、菌類の研究に没頭しはじめた。

復讐 / 三島由紀夫

海沿いの避暑地に、ひっそりと暮らす一家族。彼らは玄武という男をひたすら恐れていた。

黒髪変化 / 円地文子

愛人がいながら、トントン拍子に見合い結婚を決めた、女癖の悪い男。ほかの女とはきっぱり手を切ったが、なんとなくその女とだけは別れる機を逸する。結婚式当日、彼の前に出てきた巫女は、その愛人だった。

その木戸を通って / 山本周五郎

名跡を継ぎ、家老のむすめを嫁に迎えることが決まっている平松正四郎。だが、奇妙な事態がおこった。見も知らぬ女が、正四郎を訪ねて来たといって屋敷におしかけてきたのだ。正四郎はその女を知らぬし、女もまた、何のために訪ねて来たのかわからないし、さらに自分が何者かさえ不明だという。
はじめは追い返そうとした正四郎だが、行く当てもない様子の女を捨ておけず、家僕にあずけて面倒をみることにした。

蜘蛛 / 遠藤周作

叔父にたのまれていやいやながら参加した怪談会。雨がふる中、帰りのタクシーをつかまえようと苦労していると、送っていきましょうかと声をかけられる。その席で目を引いた、青白い陰気な男である。

猫の泉 / 日影丈吉

理想の被写体をもとめフランスを放浪していたカメラマン。チベット猫がたくさんいるらしいヨンという街の話を聞き、探しまわるが誰もその街を知らない。やっとのことでたどりついたその街では、訪問者十人ごとに時計の予言を聞く習慣がある。彼は三十人目の訪問者だった。

─────

時代下がって戦中〜戦後の作品群。なじみのある作家名も増えてきた。何作かは既読。

教科書どおりの幽霊譚もあるが、着想を重視した話が多い。守備範囲内である久生十蘭山田風太郎などはその典型。つまり自分はそういう作家を好むってことだ。特徴が如実に出ていて笑った。
それと、異彩を放っているのは山本周五郎『その木戸を通って』。神隠し題材であり、SFと言っていい内容。じんわりと胸に染みこむ物悲しいストーリーで、さすが江戸市井小説の名手、うまい。うますぎる。この1編は非常に心にのこった。