uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

孤高の人(上)(下) / 新田次郎

孤高の人(上) (新潮文庫)

孤高の人(上) (新潮文庫)

孤高の人(下) (新潮文庫)

孤高の人(下) (新潮文庫)

登山という行為がまだ富裕層のものだと思われていたころ。冬山に入るには案内人を雇い、高価な装備を揃えるのが常識であった。それを打ち破ったのが加藤文太郎という男である。
独自に工夫した装備や食料を駆使し、単独夏山登山で名を上げた彼は「地下足袋の加藤」「単独行の加藤」と称されるようになる。やがて冬山の魅力に取り憑かれた加藤は、やはり単独で、厳冬期の冬山を次々と制していった。だが、その加糖は、生涯ただ1度パーティを組んだ冬の北鎌尾根で命を断つことになる。

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実在の登山家、加藤文太郎を扱った作品。
故郷の浜坂を出て神港造船所の研修生となり、紆余曲折ありながらも優秀な成績を上げて技師に抜擢されていく社会人の顔。六甲完全縦走など夏山からはじめ、やがて冬山登山に進んで不死身の異名を取るようになる登山家の顔。「一介の技術者」が、対人関係に悩みながらも「貴族のスポーツ」であった登山界に影響を及ぼしていく姿を描いている。

加藤文太郎の造形は、ひと言でいえばコミュ障ですな笑 人付き合いができなくて、山にいるときだけ自分を取り戻せるような男。だが孤独を愛しつつ、その反面で人との関わりを渇望している。加藤の中にあるこのジレンマが、もうひとつの軸だ。社会人としても登山家としても、なかなか他人と打ち解けられずに、だが多大な実績を次々と打ち立てていく、まさに孤高の人
そんな加藤が、結婚して娘が生まれたころから人が変わったように明るくなる。そして、それまで単独行しかしていなかった男が、生涯ただ一度パーティを組み、遭難死することになる。
単独行をつらぬき通し必ず生還した加藤と、家庭を持って他人との関係性構築を知り、そのために死んだ加藤。非常におもしろい対比だ。

だがこの人物造形はおそらくかなりの部分、作られたもの。パーティを組んだことがないこと自体、大嘘だ。その他にもかなりの脚色が行われており、基本的には実在の人物をモデルにした完全なフィクションであると考えた方がいい。

ただし加藤が遺した事業は、ほぼそっくり同じ。まさしく超人的な行跡で、すげえなあ、という言葉しか出てこなかった。小並感。