uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

影を踏まれた女 / 岡本綺堂

影を踏まれた女 新装版 怪談コレクション (光文社文庫)

影を踏まれた女 新装版 怪談コレクション (光文社文庫)

青蛙堂鬼談

俳号を青蛙とする青蛙堂主が、いつもの俳諧仲間を呼び集めた。今夜は俳句の会ではなく、ひとりづつ怪談を話してくれという。集まった十二人は、ひとりづつ以下の話をはじめた。

青蛙神

青蛙由来。明の時代、武官たちが将軍から直筆扇子の下賜を受けるが、ある男だけ白紙であった。男の妻は、そのうち将軍が気づいて取り替えてくれるだろうとなぐさめるが、本当にそのとおりになる。

利根の渡

毎日毎日利根川の渡し場に立っている座頭がいる。渡し場の船頭らが口々に何をしているのか聞くが、ひどく無口な座頭はわけを話そうとしない。そして、江戸からつく船があるたびに「野村彦右衛門というものはいるか」と聞いて回っている。

兄弟の魂

赤座という友人が、死んだ父親を継いで故郷の教団の導教師になることになった。帰郷する前はいやがっていた彼だが、その後一度上京して訪ねてきたときは、かわいらしい妹を連れて楽しそうな様子であった。数ヶ月後の夜、妙義山のふもとの宿に滞在していると赤座があらわれ、妙な様子でどんどん山に入っていく。翌朝遺体で発見されることになったが、昨日赤座であったはずの男は、まったくの別人であった。

猿の眼

引き手茶屋の主人であった父は風流人で、新政府により吉原解体となるとすべてを整理し、俳句の庵を結ぶことにした。書画骨董類も売り払ってしまったが、いくつか残したなかに猿の面があり、宗匠の机を置いた4畳半のはなれに飾られた。

蛇精

うわばみが棲む村で、うわばみ退治の名人とされる男がいた。粉薬で地面に三本の線を引き、薬の毒にやられたうわばみのすきをついて手斧で頭を落とすのがやり口だ。ところがあるとき、三本目の線も乗り越えるうわばみが現れる。さすがに顔色が変わった男だが、なにやら呪文をとなえつつ履いていた股引を脱ぎ、それを引きちぎるとうわばみも真っ二つに切り裂かれ、難を逃れる。

清水の井

少女姉妹がそろって病みついてしまった。いわゆる恋の病のようにも見えるが、姉妹同時にというのが不審である。注意深くみていると、姉妹は毎夜そろって井戸までいき、じっと中を覗いている。

窯変

日露戦争の従軍記者たちが、満州のある屋敷に宿を得ようとする。土地のものは「家有妖」と言って止めようとするが、別段おかしなようすもない。使用人夫婦が主人の娘が病気なので薬をわけてくれというので、簡易に診察してみると、娘はどうみても肺病だった。

半分隠居し、俳句や書画骨董などの道楽をして過ごしていた曾祖父。そのころ2人の逗留客が長く滞在していたので、近所の仲間も呼び寄せて宴をひらくことにしたが、ちょうどそこへ諸国漫遊していた人相見の兄が訪ねてくる。急に客が増えため、無類の蟹好きであった曾祖父は、すべての客に蟹を出すよう手配させた。

一本足の女

里見家の家来に某というものがいて、夫婦に子供がなかった。あるとき磨けば光る美しさを秘めた一本足の少女が乞食をしているのを見かけた夫婦は、中間の家族に預けさせて、面倒を見ることにする。少女はみるみるうちに、美しく成長した。

黄いろい紙

コレラ大流行の年のこと。コレラになりたいと熱望する人がいるという。新宿番衆町の大きな屋敷の御新造で、むかしは芸妓をしていたという、いわゆるお妾さんである。

笛塚

歌舞謡曲の盛んな国で、ある若侍が乞食同然の笛吹きと出会った。身なりこそみすぼらしいが、年の頃なら二十七八、人品卑しからぬ風情である。もと武士であろうと問いただすと、笛吹きは笛に取り憑かれて国を出奔することになった顛末を話した。

龍馬の池

奥州白川に龍の沼という沼があり、そのほとりに社と木馬が立っていた。木馬は精巧なもので、たびたび動き出すとの噂がたっていたが、あるとき本当にいなくなってしまう。そのうち水害などの災いが立て続いて起こったため、土地の豪農が通りがかりの仏師に依頼して木馬を再建することにした。
仏師は本物の馬と馬飼いの少年をモデルにし、5か月で木馬を完成させると、礼も受け取らず逃げるようにその土地を立ち去った。

『近代異妖編』

異妖編

一、新牡丹灯記
通夜で帰りが夜中になった商家の女房。灯篭の火がふわりふわりと浮いて、煙草屋のとなりの家に消えていくのを目撃する。
二、寺町の竹薮
子供たちが遊んでいると、お兼という子供が通りかかった。お兼は「あたしもうみんなと遊ばないのよ」と言い残して姿を消した。
三、龍を見た話
よんどころない事情で嵐の夜に家路を急いでいた男。稲光のなかに、金色にひかる異形のものを見る。

月の夜がたり

七月二十六夜の怪談
ある落語家の前座時代。住む部屋を借りようと探し回っていると、ばあさんの幽霊につきまとわれる。
八月十五夜の怪談
ある煙草屋の家には、旧暦八月十五夜にかぎり、月明かりにぼんやりと人の影が浮かぶ。
九月十三夜の怪談
資産家が買い取った旧家で、敷地内にある「十三夜稲荷」という祠を取り壊そうとしたところ、女の髪と、妾が不義密通した成敗した旨の書付が、蛇といっしょに出てきた。

影を踏まれた女

おせきという娘が、十三夜に子供のいたずらで影を踏まれ、それ以来月夜の晩を忌むようになった。その年の師走十四日、婚約者の家のおばあさんが倒れたため駆けつけたおせきは、月明かりの中を帰ることになる。すると二匹の犬があらわれて、またおせきの影を踏んで行った。それからおせきは、気鬱に陥ってしまった。

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最近怪談づいてる。

岡本綺堂である。いわずと知れた半七捕物帳の著者である。怪談じみたストーリー立てと本格ミステリの謎解きで、日本ミステリ界の金字塔と言える半七捕物帳。ホームズの真似事と批判する向きもあろうが、自分の嗜好にはジャストミートしているのである。むかしのブーマーとかデストラーデが芯を食ったときくらいの、打ったとたんにそれとわかる特大本塁打である。おもしろかったなあ…再読しようかなあ…

まあそれはともかく。怪談を得意とした岡本綺堂の連作。青空文庫にも登録されてますな。百物語の形式で、語り手がひとつずつの物語を語っていくもの。『青蛙堂鬼談』『近代異妖編』の二本立てだが、形式はほぼ同じようなもの。ホラーというほどではなく、じわじわくる系の怪談で、連作形式ではあるが全体のつながりはない。

一編が短い話だし、全体を通したテーマがあるわけではないので、特にそれほど印象に残るものではなかった。ただし、さまざまな原案をいかにも日本的な怪談に仕上げる手腕は確かなもの。岡本綺堂の本領だろう。