uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

狗神 / 坂東眞砂子

狗神 (角川文庫)

狗神 (角川文庫)

美希は高知県の山中、尾峰という集落で和紙を漉いて暮らしていた。四十一歳になるが独身で、年齢よりもずっと若く見える美しい女だ。
田舎暮らしでこの年まで独り身でいることには、それなりの理由がある。美希は坊乃宮家の一族だが、十六歳のとき本家の隆直と恋に落ちた。子供まで宿したのだが、その後になって、隆直が実の兄だということを知った。幼いころ本家に養子に出されたということを知らずに深い関係になってしまったのだ。美希は結局、母とともに隣町の産院まで出向き、人知れず子供を産んだが、へその緒が首に巻きついて幼子は死んでしまう。出産は隠したものの、兄妹相姦は村人たちの噂となってしまった。
そして、もうひとつの理由がある。それは、坊乃宮家が狗神筋だということだ。坊乃宮家の女にしか見ることができぬ、壷に入った小さな狗たち。それらは、ときおり壷を抜け出しては、村人に憑依して狗神憑きを引き起こす。そのため村人たちは、坊乃宮家を恐れ、また憎んでもいた。
そんな日常のある日。村の高校に、若い男性教師、奴田原晃が赴任してくる。美希と晃は日を経ずして、年齢の差を越えて恋人となった。

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うわうわうわ、久々にやられた。気づいたときはあっと叫んだね。材料はすべて目の前にある。良質なミステリの手法だ。

最近亡くなった坂東眞砂子の代表作のひとつ。ジャンルとしてはホラーであるが、怖いという種類の小説ではない。土俗信仰のある土地を舞台にして、そこに閉じ込められた女の閉塞感を描いている。そこにあらわれた若い男。このまま朽ちていくかと思われた女の人生が、これから開けていくかとおもいきや…

あまり書くとヒントになってしまうのでなんだが、上げて落とすにもほどがあるというか。近来まれに見る暗黒ラスト。

じわじわとした閉塞間の盛り上げ方から、終盤の急展開への運びもよい。ホラー作家の面目躍如か。坂東眞砂子についてはあまりよいイメージを持っていないのだが、ちょっと認識をあらためた。人間性と作品に関連はないからな。