uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

完訳 千一夜物語 (十二) / 豊島与志雄・他 訳 その1

完訳 千一夜物語〈12〉 (岩波文庫)

完訳 千一夜物語〈12〉 (岩波文庫)

のどかな青春の団欒

第八八一夜-第八九四夜

「頑固な頭の少年と小さな足の妹」

ある村の男は一男一女を設けていたが、亡くなるとき、息子の言うことをかならず聞くようにと遺言した。ほどなく母親も亡くなったが、枕頭に娘を呼び、兄の言葉にさかわらぬようきつく言いつける。
両親が死ぬと、少年は遺産をあつめて燃やすのだと宣言。少女はこっそり財産を村の各家へ隠したが、兄はそれを察し、村中を放火して回った。怒った村人たちに追われた兄妹は、ある農夫に拾われて働くことになる。しかし兄は農夫の子供たちを叩き殺し、また逃走。巨鳥ロクの足に取り付いて、食人鬼が君臨する暗黒の国へ降り立った。
兄妹が焚き火をして暖をとっていると、食人鬼があらわれる。少年はあわてず落ち着いて薪を投げつけると、食人鬼はからだをまっぷたつにして死んでしまう。すると暗黒に包まれていた島にふたたび太陽がさした。その地の王様は、食人鬼をたおした少年に娘をめあわせ、少女を妃とした。

「足飾り」

糸紡ぎの三姉妹のうち末の妹はもっとも器量がよく手先も器用で、ふたりの姉は末妹を妬んでいた。末妹は市場で買った壷を持っており、姉らはそれを馬鹿にしていたが、それは望みのものを何なりと出してくれる魔法の壷だった。
あるとき姉たちが王様の誕生パーティにでかけると、末妹は壷からすばらしい衣装とガラスの足輪を受け取り、自分も会場へ向かう。そして姉たちが帰る前に戻ろうとした末妹は、あわてて会場に足輪を置き去りにしてしまった。
王子は残された足輪を見て、素晴らしい足の持ち主と結婚したいと熱望。人をやって探させると、足輪にぴったりの足を持っているのは末娘だけであった。婚礼は40日にわたって盛大に行われたが、最終日、姉らがやってきて、祝福するふりをして魔法のピンを末娘の頭に刺す。すると末娘は一羽の雉鳩に変わってしまった。
末娘の姿が消え、王子は嘆き悲しむ。すると毎夜雉鳩があらわれ、悲しげな声で鳴く。雉鳩をとらえた王子が頭に刺さっているピンを抜くと、鳩は末娘の姿に変わった。

「王女と牡山羊の物語」

インドの帝王は三人の娘の結婚相手を天運にまかせようと、めいめいハンカチを窓から投げさせて決めることにする。ふたりの姉のハンカチはそれぞれ高貴な若者へ渡ったが、末姫だけは三度やりなおさせても三度とも牡山羊の上に落ちた。これも天命と、牡山羊との結婚を受け入れた末姫だったが、じつは牡山羊の皮の下には美しい若者が隠れていたのである。若者は、自分の秘密を守るよう末姫に約束させた。
しばらくして王宮では、盛大な野試合を開催することになった。試合では姉姫の婿らが活躍するが、それを上回る成果を上げたのは、牡山羊が姿を変えた若者である。末姫は自分の夫に愛を示して応援。それを見咎めた王が詰問すると、あの若者こそ自分の夫であると供述。その日から若者は姿を消してしまった。
失意の末姫は、あらゆる不幸話を集めて気をまぎらわせようとするが、ある老婆は、牡山羊と人間とに姿を自在に変える若者たちの国へ迷い込んだという話をする。四十人の若者とその主人らしき若者は、女主人を待って悲嘆にくれているというのだ。
老婆に案内させて地下の国へ入ってみると、はたして主人の若者は彼女の夫であった。女主人となった末姫は、しばらくのちにふたりして宮殿へ帰った。

「王子と大亀の物語」

ある帝王は三人の王子の結婚相手を天運にまかせようと、めいめい矢を露台から撃たせて決めることにする。ふたりの兄の矢はそれぞれ高貴な娘の家へ突き立ったが、末王子だけは三度やりなおさせても三度とも大亀が住む家に落ちた。末王子はこれも天命と、大亀との結婚を受け入れる。
しばらくすると帝王の健康が思わしくなくなる。王子たちの嫁がそれぞれ手料理をふるまうことになるが、大亀の計略によって兄たちの嫁は悪臭ふんぷんたるひどい代物を提供。それに対し大亀の料理はたいそうなご馳走で、帝王はこのおかげで体力をとりもどした。
今度は快気祝いをおこなうことになるが、またもや大亀は計略を用い、兄たちの嫁は珍妙な格好で帝王の前にあらわれる。対して大亀はというと、甲羅を脱ぎ捨て、優美な姫君の姿となって御前に出た。
姫君がバター飯を頭にかけるとすべての飯粒は真珠へと変わり、スープを頭にそそぐと水滴はエメラルドに変わる。兄嫁たちがまねをしてみると、バター飯もスープもそのままぐちゃぐちゃに体を汚し、世にも見苦しい状態になる。帝王は不興を催し、ふたりの兄嫁を追放して末の王子を後継者に指名。姫君は、もう甲羅は必要ないとし、これを焼き捨てた。

「エジプト豆売りの娘」

エジプト豆売りに三人の娘がおり、帝王の王子は末娘に懸想していたが、娘たちは王子をからかい通していた。王子が豆売りを脅して難題を仕掛けてくると、軽く解き明かしてみたばかりか、間髪をいれず逆襲し、魔神の姿をして脅かし気を失った王子に馬糞を食わせ、両眉、方髭、方髪をそり落としてしまい、さんざんに嘲弄する。
思いあまった王子は、豆売りの首をはねると脅して末娘との結婚を承諾させると、姉妹は砂糖菓子で末娘の人形をつくり、寝室に寝かせた。これまでの侮辱の数々を思い出した王子が剣を抜いて砂糖菓子の頭に一撃を加えると、菓子はこなごなに砕けてそのかけらが王子の口に入る。思いがけない甘露に後悔を催した王子が腹を切ろうとすると、本物の末娘があらわれる。彼らはお互いを許すことにし、以後繁栄を極めた。

「解除人」

ダマスの若い商人は、店にあらわれた美しい母娘から結婚をもちかけられた。婚資も一切の出費も免除し、安楽な暮らしを保証、結婚式もその他諸々もすべて省略し、一刻もはやく結婚しようという。うまい話だ。
結婚の翌日、仕事を終えて新居に戻った男は、妻がひげのない若い男と同衾しているのを目撃。反射的に離婚を口走る。だが、ひげのない少年と見えたのは、若い女であった。
実は妻であった女は、かつて相思相愛の男と結婚していたのだが、喧嘩をしたあげくに男のほうが離縁を宣言してしまったのだ。イスラム法では、離縁した女は一度結婚して離縁された後でないと、もとの夫と復縁できない。母娘は、離縁の言葉の解除人を探していたのである。

「警察隊長」

カイロに容貌魁偉クルド人の警察隊長がいた。結婚するにあたり、女が引き込む諸々の災いを避けるため、母親のもとから離れたことのない初心な処女を所望する。条件にあう娘がみつかって結婚するが、妻はさっそく隣家の肉屋の息子を家に引き込むようになった。
ある日早く帰った警察隊長は、家の様子がおかしいことに気づく。妻はとっさに機転をきかせ、言葉たくみに現在の状況を他人事のように話してみせ、警察隊長に目隠しをしているあいだにまんまと男を逃してしまう。鈍感なクルド人の男はまったく気づかず、幸福な男として世を送った。

「誰がいちばん寛大か?」

バグダードに相思相愛の従兄妹どうしがいたが、家が没落してしまい、娘は長老へ嫁入りすることになった。
長老は新妻が嘆き悲しんでいるのを見て、わけを知ると、愛する男のもとへ帰りなさいと娘を送り出す。
道の途中で盗賊が娘を見つけるが、彼女の身の上と長老の話を聞くと、娘を護衛して従兄のもとへ送り届ける。
従兄妹たちが長老の家を訪ねると、長老は財産をふたりのものとし、自分は別の都へ住むこととし旅立って行った。

「去勢された床屋」

カイロの百人隊長は剛勇の士であらゆる女を満足させる資質を有していたが、その妻はむしろ柔弱な若者がタイプで、愛する男を持っていた。ある日百人隊長がでかけると、さっそく使いをやって若者を呼び込む。たまたま床屋にいた若者が一ドラクムをはずんで屋敷にかけつけると、気前のいい上客とみた床屋は、後を追って屋敷の前で若者が出てくるのを待った。
百人隊長が思いがけず早く帰ってみると、床屋が屋敷の前にいて、若い男が中に入って行ったと証言する。百人隊長は床屋をつれて家探しするが、騒ぎを聞いていた妻が男を雨水桶の中に隠していたため、姿はみつからない。最後に雨水桶を調べようとすると、妻はたくみに百人隊長を焚きつけて懲らしめるように言い、焼き付けた鉄棒で精管を焼き切って追放した。若い男は騒ぎがおさまるまで待ち、無事に逃走した。

「ファイルーズとその妻」

家来ファイルーズの妻に懸想した王様は、ファイルーズを使いに出している間に思いをとげようと妻を訪ねるが、妻は王の要求を拒絶した。
いったん旅立ったファイルーズだが、書状を忘れたことに気づいて家に戻ると、王のサンダルが自分の屋敷に落ちているのを見つける。王のたくらみに気づいた彼は、使いを果たして戻ると、理由をつけて妻を実家へ帰し、あとは口をつぐんで何もいわなかった。
妻の兄が仲裁を王に申し出ると、ファイルーズはたくみな例えで王の行動を示唆する。そしらぬ顔で聞いていた王も、拒絶されたことをそれと聞こえないように知らせる。ファイルーズは納得して妻を呼び戻し、この事件は王とファイルーズのほかに知る者はなかった。

「生まれと心」

カイロでひと儲けしようとした欲深なシリア人は、市場で若い三人の女を見てスケベ心をおこし、隊商宿に招いて宴会をひらく。三人の名前を聞くと、それぞれ「あなたは私のようなものを見たことはないでしょう?」「あなたは私に似た人など見たことがないでしょう!」「私を見てください。そうしたら私が分かるでしょう!」と答えた。
泥酔したシリア人が目覚めてみると、彼の持ち物はことごとく奪われ、丸裸にされている。あわてて道に出て、女たちから教えられた名前を連呼するが、人々はシリア人を狂人あつかいするばかりであった。

(つづく)


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ひさびさに千一夜復帰。
最近わりと読書生活復帰してきました。

「足飾り」はシンデレラとほぼ同じ話。興味深い。シンデレラの原型となる寓話は、世界各地に認められるらしい。これは中東バージョンか。
「王女と牡山羊の物語」「王子と大亀の物語」は対になる話。結婚相手を運で決める話も類型的ではある。
「頑固な頭の少年と小さな足の妹」は何だろう、この兄は狂人としか思えない笑

前半四編は読み応えがあったが、それ以降はいつものアラビア小話に戻ってしまった。