uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

完訳 千一夜物語 (十二) / 豊島与志雄・他 訳 その2

完訳 千一夜物語〈12〉 (岩波文庫)

完訳 千一夜物語〈12〉 (岩波文庫)

不思議な書物の物語

第八九五夜-第九〇四夜
寝苦しさで目覚めた教王アル・ラシードは、大臣ジャアファルの勧めにしたがって読書をした。すると教王は、本を読みながら、笑いながら泣きはじめる。なぜそのようなことになったかジャアファルがたずねると、教王はいたく怒り、書物の内容を最初から最後まで解き明かせるものを連れてこないかぎり首をはねると言いつけた。ジャアファルは三日の猶予を取りつけて、賢者を探しにでかけた。
ダマスに至ったジャアファルは、裕福な若者仁者アタフが家の前にテントを張り、美しい乙女に見事な詩を歌わせているところへ通りかかり、歌に耳をかたむける。若者はジャアファルを誰とも知らずに屋敷へ招き、大いに歓待。ジャアファルは身分と本名を隠し、教王との約束を気にかけながらも、若者との親友の交わりのうちについつい時を過ごす。
四か月がたち、約束を思い出して鬱々としていたジャアファルは、気晴らしに散歩にでかけ、美しい乙女に恋をする。恋わずらいに陥ったジャアファルから話を聞き出してみると、恋の相手は、じつはアタフの妻なのであった。それを知った彼は、妻のもとに行ってただちに離縁を言い渡すと、大臣ジャアファルを名乗って妻に迎えに来たことにしろと策をさずける(アタフはジャアファルが大臣その人であることを知らない)。ジャアファルはダマスの教王代理の前で結婚契約をおこない、アタフが整えた隊列を連れてバクダードへの帰途についた。
新妻は、アタフとジャアファルが旧知であることを知ると、アタフが身を引いて自分をジャアファルの妻としたことに気づく。彼女から話を聞いたジャアファルもアタフの行動を知り、以後彼女に護衛をつけて、預かりものとして丁重に扱った。一時の怒りでジャアファルが出奔したことを後悔していた教王は、彼の帰国を歓迎。仁者アタフとその妻の話を聞くと、庭園の中に家をたて、彼女を住まわせた。
一方アタフは、ジャアファルを頼って教王代理を失脚させようとしたのだと、彼を妬む輩から讒訴され、獄につながれる。脱獄した彼は乞食同然の姿となってバクダードまでたどりつき、ジャアファルが大臣その人で、アタフの仁者ぶりを事々に語っていることを知ると、屋敷へ行ってメモの言付けを頼む。しかしメモをみたジャアファルが動転して気を失ってしまったため、家僕の奴隷たちはけしからぬメモを見せたとしてアタフを捕らえ、土牢にぶちこんでしまった。
二か月がたち、教王に子供がうまれたために恩赦が行われ、解放された囚人たちの中にアタフの姿があった。途方にくれていた彼は、祈りをささげようと寺院へ向かうが、他殺死体につまづいて転んでしまう。そこへ警察官がかけつけ、血まみれになっているアタフを見て、殺人の現行犯として逮捕する。翌日アタフは斬首されかけるが、その判決に疑問を持ったジャアファルの仲裁で一命をとりとめる。最初はあまりの変わりように気づかなかったジャアファルだが、これまでの話を聞くに、アタフその人であることがわかり、ふたりは再会の喜びをわかちあった。その場には真犯人もあらわれる。無類の放蕩者であったため成敗したのだという老人である。ジャアファルは話を聞いてその罪を許し、事件は解決した。
宮殿に招かれたアタフは、教王より莫大な富を下賜され、妻をもとのままに返される。そしてダマスの太守として凱旋し、市民から熱烈に歓迎された。もとの教王代理は死罪になるところであったが、アタフのとりなしで終生追放のみですんだ。
そして、この騒動のおおもとである書物については、もはや誰も問題としなかった。

金剛王子の華麗な物語

第九〇四夜-第九二二夜
ある国の王に「金剛石」という名の王子がいた。ある日気晴らしに狩りに出た王子は、獲物を追ってオアシスに迷い込むと、そこには年老いた王がただひとり玉座に座っている。わけを聞くと次のようである。
王には七人の王子があった。ある日隊商から、カームース王の息女モホラ王女は並ぶものなき姫であって、全国に婿を集っている。しかしひとつ条件があり、「松毬と糸杉との間の関係や如何」との質問に答えなければならない。答えられなかったものは首をはねられ、宮殿の尖塔にかけられるであろう、という話を聞く。姫に思いをつのらせた王子たちは、次々に無謀な挑戦を行い、ことごとく首をはねられてしまった。王は絶望してすべての希望を捨て、ここで死を待っているのだ。
この話を聞いた金剛王子は、やはりモホラ姫に心をとらわれる。国力により力づくで姫を迎えようという父王の言葉にかぶりをふり、謎に挑戦するためカームース王の国へ旅立った。金剛王子を引見したカームース王は、あまりの美貌を惜しみ、いったん辞して考え直すよう説得。王子はその場はひきさがるを得ず、散策に出ると、ある庭園ですばらしい乙女に目を奪われた。モホラ姫であった。
モホラ姫の侍女「珊瑚の枝」は、美貌の青年がこちらを見つめているのに気づき、モホラ姫に注進する。姫はその美しい姿をみとめ、恋情にとらわれるが、王子がとっさに狂人を装ったのを見てこれは聖者であると考え、一室を与えて住まわせることにした。同様に恋に陥ちていた珊瑚の枝が真情を尽くして王子に訴えると、王子は狂人のふりをやめ、ここへ来た本当の目的を珊瑚の枝に伝える。すると彼女は、この謎は姫の寝台の下に棲む黒人から出たものである、黒人はワーカークから逃げてきた者だ、すべての謎はワーカークの街にある、と王子に明かした。
金剛王子は、ひとりの修道僧をつかまえると魔神の住処であるというワーカークへの道を聞き出し、入口にある光塔へたどりつく。中にはいると庭に何頭もの鹿がいて、王子の姿をみとめると、来るなというような素振りをみせた。宮殿にはラティファという美しい乙女がいて、さんざん金剛王子を誘惑するが、王子はなびかず立ち去ろうとする。するとラティファは杖をふるい、王子を鹿の姿に変えてしまった。
庭を脱出して第二の庭に入った王子は、ラティファの異母妹である乙女ガミラと出会った。ガミラは鹿が涙を流すのを見ると、魔法をといて王子を人間の姿に戻す。そして無謀な計画を知ると全力で止めるが、王子の決心が変わらないのを知ると剣「スライマーンの蠍」をさずけ、恐ろしい黒人王ターク・タークの案内によって叔父アル・シムールグの力を借りよと助言する。
王子はターク・ターク王とその家来頭マーク・マークの軍勢を、スライマーンの剣をふるって打ち倒す。するとその王宮には、ターク・タークによって王座を奪われた王の王女アジザ姫がのこされていた。王子は姫を玉座につけると、その案内によって巨人「飛行のアル・シムールグ」が大いびきをかいて眠っているところへ出た。
アル・シムールグは王子の剣を見、さらに目的を知ると、王子を上にのせてワーカークまで飛行する。到着すると毛をひと束渡し、困ったときには毛を一本焼けばすぐにあらわれるだろうと言い残して飛び去った。ひとりになった王子がどうしようか考えていると、美しい青年ファラーが近寄ってきて、ふたりはたちまち親友となる。松毬と糸杉について聞いてみると、ファラーは顔色を変えてひどく動揺したが、糸杉とは当地の王であり松毬はその妃であることであることを教え、王へ謁見する手はずを整えることを約束した。
ファラーの手引きで王に謁見した金剛王子は、命の保証を約束した上で松毬と糸杉の関係と、ホモラ姫の寝台に棲む黒人の謎を問う。すると王は大いに怒り、先の約束がなければすでに命はなかったと宣言する。また王子の美貌を大いに惜しみ、それ以上の問いを明かすならばかならず命はない、取り下げろ、と諭すが、王子はあくまで回答を求める。すると王は、一匹の兎猟犬と、ひとりの縛られた美女、黒人の首が乗っている皿をその場に運び出させた。それからご馳走を持ってこさせると猟犬の前に置き、犬が満腹すると食べ残しを集めて美女の前に置く。すると美女は最初に泣き、次に笑ったが、その涙は真珠となり、笑顔は薔薇となった。このわけは、次の通りである。
王が狩りに出たとき、突然激しい渇きに襲われた。井戸をみつけて水をくみあげてみようとするが、水桶はぴくりとも動かない。やがて井戸の底から声が聞こえ、渾身の力で引き上げてみると、盲目の老婆がふたり釣り上がってきた。老婆たちは第一階級の魔神の怒りをかい、この井戸に投げ捨てられたのだという。言葉にしたがって牛の糞を手に入れて老婆たちの目に塗ると、ふたりは視力をとりもどす。富か、美か、健康か所望するものを言えという老婆たちに美を要求すると、彼女らは第一階級の魔神の娘を彼に紹介した。ひと月のあいだひそかに愛し合ったふたりだが、やがてそれは魔神の父母の知るところとなる。人間の臭いによって捕らえられた王は火刑に処せられるが、老婆たちが体に塗った油の霊験によって、王は火炎に焼かれることもなく五体を保っていた。人間界でも卓越したものであると見た父母らは、正式に王を娘に娶らせることにした。
しばらく後、ワーカークの街に帰還した王は、褥に横たわっている妃松毬の体がいやに冷えていることに気づく。さらに厩へ行ってみると、駿馬がやけにやせ細っていることを知る。馬丁を問いただすと、松毬が夜な夜などこかへ出かけるために衰弱してしまったのだと告白する。そこで眠ったふりをして様子を見ていると、松毬は糸杉王に麻酔剤を飲ませ、どこかへ出かけていくではないか。麻酔剤を飲んだふりをし、後をつけた王は、松毬が七人の黒人たちと乱交におよんでいる現場を目にした。王は黒人たちを次々に成敗すると、松毬を捕らえて縛り上げ、黒人の死体から首をはねて皿にのせ、肉は犬に食わせた。
すなわち、縛られていた女は松毬であり、首は黒人のものである。ひとりだけ現場を逃れた黒人がおり、モホラ姫の寝台の下に棲み着くこととなった。このことを知る者は誰ひとりいない。以上のことが松毬と糸杉との間の関係、およびホモラ姫の寝台に棲む黒人の謎のすべてである。
これを聞いた金剛王子は、なにゆえ七番目の黒人がモホラ姫の寝台に棲みにいき、なにゆえ姫がそれを許したのかと問う。この質問に意表をつかれた糸杉王は、王子の一命を許し、退去を命じた。
毛を燃やしてアル・シムールグを呼び出した王子は、アジザ姫とガミラのもとに立ち寄り、ふたりを妻にした。さらにラファティも罪を許し妻にすると、カームース王の国へ帰還。珊瑚の枝を四人目の妻とした。
そして王子は、満を持してモホラの問いに答え、黒人の存在を暴く。黒人を探しださせたカームース王は、姫の行状を恥じると王子にその身柄を預け、黒人については串刺しにして殺させた。自国へ姫を連れ帰り、父王に裁断をあおぐと、父王は王子のかつての執心を思い、許すように告げる。四人の妻も納得したため、王子は姫とも結ばれた。

滑稽頓知の達人のさまざまな奇行と戦術

第九二二夜-第九二五夜
カイロの地に、一見おろかなゴハという男がいた。途方もない道化者だったが、じつは内に鋭い叡智を宿していた。
ゴハの滑稽な頓知話の数々。

(つづく)


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毎度おなじみ教王アル・ラシードがらみの逸話と、毎度おなじみ魔神の国の冒険譚。
金剛王子の物語はおもしろい。アラビアンナイトの魅力満載。屁推進で飛行する巨人ワロタ。イスラム法は妻は四人までだっけな。

ゴハの頓知話はショートショートにも至らないほどの逸話集だったので、詳細は略。