uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

完訳 千一夜物語 (十二) / 豊島与志雄・他 訳 その3

完訳 千一夜物語〈12〉 (岩波文庫)

完訳 千一夜物語〈12〉 (岩波文庫)

乙女「心の傑作」鳥の女代官の物語

第九二六夜-第九三七夜
教王アル・ラシードの宮殿にイスハーク・アル・ナディムという音楽家がおり、音楽の素養のある乙女たちに歌や琵琶を教えるのを役目としていた。イスハークを連れ、教王がいつものようにお忍びで街を歩いていると、イスハークの音楽寮に奴隷を提供している商人がやってきて、すばらしい詩を歌う美女を紹介する。乙女トーファまたの名を「心の傑作」は、イスハークの音楽寮へ入ることだけを夢見て、これまで商談がまとまりそうになっても理由をつけて断ってきたのである。トーファの才能を目の当たりにしたイスハークは、言い値の三倍である三万ディナールもの大金を出し、トーファを入寮させた。
しばらくすると、トーファの力量はイスハークを凌駕するようになる。そうと気づいたイスハークが教王へ報告すると、アル・ラシードもこれを認め、後宮に入れてお気に入りの寵姫とする。その寵愛ぶりは、セット・ゾバイダが空閨の悲しさをトーファに訴えるほどであった。
ある夜、トーファが琵琶を奏でていると、密室のはずなのにどこからかあらわれた老人がダンスを踊っている。それは魔神国の長老イブリースであった。魔神国の女王カマーリヤがトーファの噂を聞き恋い焦がれている。ちょうどこれからイブリースの娘の婚礼と息子の割礼が行われるので、一緒に来ていただきたい。高貴なるものとして丁重に扱い、帰りたくなればいつでも帰してあげようと言う。断る勇気がでなかったトーファが思わず「はい」と答えると、イブリースは彼女を地下の魔神の国へいざなった。
神の国の住人たちは、ごく一部をのぞき、トーファを驚かさぬよう人間の姿に変わっている。カマーリヤ王女をはじめとする魔神たちは、イブリースの言葉どおりトーファを貴人として扱い、彼女が奏でる音楽や詩句に感嘆の声をあげた。多くの詩を歌い終わり帰国の意志を告げると、イブリースは琵琶の奏法を伝授し、さらに彼女を「鳥の女代官」に任命、十二の戸棚に財宝を積み込んでみやげに持たせた。
アル・ラシードは失踪したトーファが戻ったことに狂喜し、祝宴を開かせた。そこでイスハークが歌ったのは、トーファがイブリースから学んだものであった。

バイバルス王と警察隊長たちの物語

第九三七夜-第九四〇夜
カイロの帝王バイバルスは、警察隊長を集め、これまでにあった中でもっとも他人に聞かせたい話をせよと言いつける。

「第一の警察隊長の語った物語」

隊長が物陰で休んでいると、きっかり百ディナール入った袋が上から落ちてくるが、あたりには誰もいない。次の日も同じことがおこり、三日目に寝たふりをして待っていると、美しい乙女が隊長の腹をなでまわした。女は法官の娘といい仲になっていたが、父親の知るところとなり、仲を引き裂かれたのだという。隊長に接近したのは、仲立ちをする役に立ってもらいためだ。道に迷った女のふりをするので、法官の家に宿をとるようにはからってもらいたい。そうすれば恋人と再会し、思いを果たすことができるだろう。
その計画どおりに行動した隊長だが、翌朝法官の家に行ってみると、女が六千ディナールの大金を盗み出して姿を消したという。法官はえらい剣幕で、三日のうちに金を返すよう隊長に請求する。
女を探すのをあきらめた隊長は、三日間を寝て過ごし、法官の家へ向かった。すると当の女があらわれて、この計画はただ金を盗み出すだけのものではなく法官を再起不能にするためのものだといい、策をさずける。女は外ではなく家の中におり、姿が見えないのはなんらかの犯罪に巻き込まれたに違いないと報告する。法官は家探しをさせるだろうが、なにも見つからないはずだ。しかし最後に台所の油壷を調べてみれば、そこには女が着ていた衣装が入っている。さすれば法官はこれを恥じ、損害賠償を取り下げるばかりか、多大な口止め料を払うであろう。
事はすべて計画どおりに進んだ。法官はその後、三日もあけずして死んだという。隊長がそのことを女に知らせに行くと、女はすでに法官の娘と旅立ったあとであった。

「第二の警察隊長の語った物語」

隊長が結婚するとき、妻に三つの誓いをたてさせられた。ハシーシュを用いないこと、西瓜を食べないこと、椅子に座らないことである。だがあるとき隊長は、その禁をいちどに破ってしまい、妻に知れて離婚訴訟を起こされる。法官がとりなすと、妻は次の問いに答えることができたら仲直りしようと言った。「私は、はじめは骨です。次に私は筋になります。次に私は肉です。私は何でしょう?」
帰宅して頭を悩ませる法官だが、わずか十四歳半の彼の娘が問いを聞くと、たちどころに答えを見つけ出した。それは陰茎である。少壮のころは骨のようで、中年以降は筋のようになり、老いればただの肉となる。
次の日、法官はただしく答えを伝えたが、法官の家で何があったかを察した妻は、さんざん法官に嫌味を言って恥をかかせた。


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『乙女「心の傑作」鳥の女代官の物語』は魔神がからむお話。基本気のいいやつらだ。作中の多くが詩で埋まっている。
『バイバルス王と警察隊長たちの物語』は途中まで。最終巻は第三の警察隊長からつづく。

さあ残すは最終巻のみ!ここまできたか…年末年始で消化したい。感想に書く最後のセリフも決まってるよ!