uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

剣鬼喇嘛仏 / 山田風太郎

剣鬼喇嘛仏 (徳間文庫)

剣鬼喇嘛仏 (徳間文庫)

女郎屋戦争

御庭番が吉原に通いつめ詰腹を切らされたことを知った田沼意知は、武士専用の遊郭を作ることを思いついた。傾城は武家の娘につとめさせ、士分のものは吉原ではなくこちらを利用させる。町人も利用可能だが、その場合高額な料金をとる。さすれば、武士の吉原通いを抑止し、さらに運上金まで入るではないか。
不祥事の責任をとらせる形で御庭番の頭領を支配役に指名し、さっそく遊郭を立ち上げるが、吉原も黙ってはいない。関西から来た淀屋文左衛門という謎の人物が後ろ盾となり、新遊郭へさまざまな挑戦をしかけてくる。

伊賀の散歩者

高齢の藤堂高次公が、ひどく不細工な妾を連れ帰ってきた。まあ不細工なのではあるが、妙に魅力がある女で、高次公は若返ったように精力的になった。それはそれでよろしいことだ。問題なのは、妾といっしょに来た弟の歩左衛門である。茫洋とした禿頭の男で、ひっそりと家に篭り、何をしているかよくわからない。かと思えば、とつぜん伊勢にある島を訪ねてみたり、ひとりで伊賀まで旅をしたりしている。
この人物が公儀隠密ではないかと疑った大目付は、伊賀忍風忍斎を派遣して歩左衛門の身辺を調査するよう命じる。

伊賀の聴恋器

柳生宗矩の娘お万に惚れた服部大陣は、聴恋器を発明した。この男、旧来の忍びという職業に否定的で破門同然となり、兵法よりも宗矩の政治力を学ぼうとして弟子になっている男である。剣や忍術より、武器となるのは知恵。この聴恋器というアイテムで、武芸に勝る恋敵を陥れようというわけだ。
理論としては、男女の恋愛というのは精と卵の共鳴によるのだ、というもの。聴恋器から伸びる二つの盃の、一方を男のふぐりに、他方を女の秘所にあてると、相性抜群の相手であれば、じつに玄妙なメロディが聞こえるという。

羅妖の秀康

結城秀康は梅毒で鼻が欠けていた。欠けた肉体を再生する術を持つ忍びが家中にいることを知った秀康は、その男の男根を材料にして鼻を作るよう命令する。もうすぐ妻を娶る予定だった男は、命令にしたがったのち、絶望して首をくくった。男の死など意にも介さない秀康は、鼻を使っての情事にふけるようになる。材料が男根だけに、興奮状態になると鼻が勃起するのである。鼻を使った性交は通常の数倍の快楽をもたらし、また、不思議に、その最中、男根が鼻のかわりに呼吸を行うようになった。
一方、秀康の政治的不遜な態度に業を煮やした家康は、ひそかに刺客を放った。

剣鬼喇嘛仏

細川氏の世子でありながら剣の道をめざす長岡与五郎。宮本武蔵に私淑し、対戦を望む与五郎は、細川氏の人質として江戸に入る直前、修行に行くと書き置きして脱走した。数年後、修行を終えて小倉に帰った与五郎だが、今度は武蔵を追って大坂城に入ると言い出す。脱走時は代わりの人質をたて、嫡子も変えて乗り切った父の細川忠興だが、実子が大坂城に行ったとあれば、こんどこそ家康の不興をかうかもしれぬ。忠興は、せめて子供を残していけと説得し、女忍び登世を相手としてつけた。
若君をひきとめる大役をつとめることになった登世は、喇嘛(ラマ)仏を使った秘術を実行する。

春夢兵

歴史的冒険のあと密偵になっていた間宮林蔵は、南部藩武装強化している情報をつかんでいた。歴史的に犬猿の仲である南部藩津軽藩。先には相馬大作津軽藩主襲撃事件を起こしたが、その実弟下斗米鉄之進が中心となって軍備をすすめている。殺傷能力のある空気銃「風銃」を開発して銃隊をつくり、さらには優生な男女を強制的にかけあわせた人種改良計画まで実行しているのだ。
顔を知られている林蔵は、自分のかわりに伊賀忍びを潜伏させることにする。しかしその忍びらは、待機所の土蔵の中で春画を描いている、役に立つのか立たないのか、よくわからないやつらだった。

甲賀南蛮寺領

神父オルガンチノが建立した南蛮寺に、信長は甲賀を所領として与えた。これに猛反発する甲賀五十三家は、家老格の荒晒野雄太夫を中心として面従腹背の両面作戦を行う。抵抗派と恭順派にわかれたように見せて、裏で共闘し、土賊をよそおって年貢米を強奪してしまうのである。
そして雄太夫は、もうひとつの作戦も用意していた。甲賀宗家、甲賀織部は非常なる美少年で、他のことは凡庸だが、女のあつかいに長けている。その手にかかった女は、彼のためならどんなことでもやってみせるようになるのだ。そうした女を伴天連のもとに送り込み、籠絡してしまうのだ。

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与五郎とつながったまま街中歩くなんて頭がフットーしそうだよお!

ネット住民がこれを読んだら、誰もが思いつくであろうフレーズで書き出してみました。これはひどい。性的な意味で。エロ忍法短編集。
しかしこの場合、エロを書いていても、エロいというよりユーモラスだ。山風得意の奇想アイデアが先行した短編だから、どうしても扇情的にはならず、下ネタになっちゃう。ばかばかしくて非常によろしい。

あと、この作品集で目を引くのは『伊賀の散歩者』ですな。乱歩の作品多数から、キーワードや登場人物、アイデアなどを抜き出して再構成したもの。主人公は乱歩本人笑 結びに「いくつ引用しているかわかったかな?」という意味の挑戦状つき笑
変格推理の代表的作家ふたりのじゃれあい。当時のミステリ界の空気が読めるような、興味深い楽屋落ちパロディでした。