uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

完訳 千一夜物語 (十三) / 豊島与志雄・他 訳 その2

完訳 千一夜物語〈13〉 (岩波文庫)

完訳 千一夜物語〈13〉 (岩波文庫)

海の薔薇とシナの乙女の物語

第九五四夜-第九五九夜
シャルキスターンの王ザイン・エル・ムールークに三番目の王子ヌールジハーンが生まれた。青年の姿を見ると王は盲目になるだろうという占いにより、遠くの宮殿に住まって成長するが、青年に達した王子を偶然見てしまった王は、はたして目が見えなくなる。視力回復に必要な、シナの王女が植えた海の薔薇を手に入れるため、王子は旅に出る。
旅の途中で出会った森の魔神は、王子の差し出す菓子がいたく気に入り、たちまち親友となった。王子の目的を知った魔神は、その薔薇は空の魔神たちが監視しているものだと言い、菓子の提供を条件に協力を約束する。王子をシナまで送り届けると、菓子を持って空の魔神たちの気を引き、そのあいだに王子は無事に海の薔薇を入手。その帰りにシナの王女の寝姿を見た王子はたちまち目を奪われ、自分が来たしるしとして指輪を交換して立ち去った。
視力を取り戻した王は大いに喜び、王子に国の半分を与えた。王子は魔神に頼んで庭園に泉水を掘らせ、海の薔薇をそこに植えた。兄王子たちは、本件は妖しの術によるものだと訴えるが、王は次の話のように、全能者には不可能なことなどないのだとして兄王子たちを遠ざけた。

跡継ぎがないことを憂いていたインドの王に子ができたが、その子は女であった。王の嘆きを恐れた母は、その子は男であると周囲に信じ込ませ、男として育てた。やがて十五歳になった王女は嫁を迎えに行くことになり、道中途方に暮れていたが、途中出会った魔神はその悩みを聞き、お互いの性を交換することにした。本物の男として妻に接し男児を得た王女は、帰国する途中に魔神を尋ねて性を取り戻そうとする。だが魔神は、性を返せないと王女に告げる。この期間にほかの魔神と男女の仲となった魔神は、いまや子供を妊娠していたのである。

一方、薔薇がなくなっていることと指輪が交換されていることに気づいたシナの王女は、犯人を探すため多くの乙女を伴って旅をしていた。シャルキスターンに達してヌールジハーンの事績を聞きいた王女は、彼が犯人であると知り、その姿を見てみようとする。すると、王子の美しさを認めた王女は、一目で恋に落ちてしまった。乙女たちの協力で恋文を交換し、ふたりはたちまち恋人となる。その仲を知った王は、いそいで彼らを結婚させた。

蜂蜜入りの乱れ髪菓子と靴直しの禍いをまきちらす女房との物語

第九五九夜-第九七一夜
カイロの靴直し職人マアルフには底意地の悪い女房ファティマーがいた。ある日マアルフには、蜂蜜入りの乱れ髪菓子を買ってくるよう妻に言われるが、その日まったく収入のなかった彼は、親切な菓子屋に砂糖黍蜜の乱れ髪菓子を恵まれて帰宅する。しかしファティマーは蜂蜜ではないことをさんざんなじったため、さすがに逆上したマアルフが手を上げると、最悪の夫婦喧嘩に発展した。翌朝彼は、女房が讒訴した法官らに連れられて、足の裏の棒打ち刑にかけられる。もう家に帰りたくなかった彼は、たまたま見かけた屋形船に乗り込み、船子としてあてもなく旅立った。
船は沈没し、マアルフはソハターン国ハイターンの町へ打ち上げられる。マアルフをたすけた裕福な商人は、となりの香料商人の長老の息子で、諍いをおこして出奔してしまった、かつての彼の親友アリであった。アリはマアルフを引き立て、大商人であると当国の市場に紹介。たちまち彼はそれなりの財を得、その鷹揚な態度は国王の耳に届くまでになった。
隊商の財宝を匂わせるマアルフを豪商人であると信じた王は、大臣の反対を押し切って彼を王女の夫とする。だが当然ながら、隊商はいつまでたっても到着しない。マアルフの大盤振る舞いにより国庫がカラになったとき、王は大臣の疑義もあって姫に事情を確かめるが、王女は言葉をとりつくろって夫の元に戻る。そして真実を聞き出すと、解決の方法を思いつくまでマアルフを一時退散させ、王と大臣には適当な嘘をついて時を稼いだ。
ある村にたどり着いたマアルフは、農夫に出会う。歓待の準備のため姿を消しているあいだ、農作業を手伝おうとした彼は、畑の真ん中に地下室をみつけた。そこには巨万の財宝と赤瑪瑙の指輪があり、指輪をこすってみると魔神があらわる。そこはアードの息子シャッダードの古い宝物蔵で、魔神はシャッダード王の奴隷であったものだった。魔神に命じて財宝を運び出し、隊商とご馳走を整えさせたところに農夫が帰ってくると、マアルフはご馳走に一切手を触れず、農夫が用意した食物のみを口にし、財宝の一部を渡して立ち去った。
こうしてマアルフは財宝を手にして王国に凱旋した。大臣はこの謎を解き明かそうと、酒に酔わせてへべれけにさせ、すべての話を聞き出す。そして隙を見て指輪を奪うと、魔神を呼び出してマアルフと王を砂漠に放逐させ、王女を我が物にしようとした。大臣の要求に応じるふりをした王女は、たくみに指輪をはずさせるとそれを奪い返し、魔神の力によって大臣を牢に入れ、王とマアルフを呼び戻させた。大臣は串刺し刑に処され、以後指輪は王女が管理することになった。
しばらく安泰な日々が続いたが、ある夜からマアルフと王女の寝室にファティマーがあらわれるようになる。夫の恐怖をみた王女は、これがかの悪妻であると知り、魔神によって庭の木に縛りつけ、かの悪妻は性根を直すか死ぬかの運命となった。
それ以降はつつがなく日がすぎ、マアルフと王女は幸せな日々を送った。


つづく。