uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

完訳 千一夜物語 (十三) / 豊島与志雄・他 訳 その1

完訳 千一夜物語〈13〉 (岩波文庫)

完訳 千一夜物語〈13〉 (岩波文庫)

バイバルス王と警察隊長たちの物語(承前)

第九四〇夜-第九五四夜

「第三の警察隊長の語った物語」

漁師の女房に懸想した帝王は、大臣の悪知恵による難題をふっかけて漁師を殺そうとし、一アルパンの大広間に敷く一枚の布でできた絨毯を用意せよと要求する。女房は、これこれの井戸に行きって、中にいる女に自分が紡錘を忘れてきたと呼びかけろ、と言った。そうして手に入れた紡錘の中からは、どのような広さにも広がる絨毯が入っていた。
次に大臣は、最初が嘘ではじまり、最後も嘘で終わる物語をする生後一週間以内の赤子を連れてこいと要求。またも女房の言うとおり、井戸の女に紡錘を返して赤子を借りてくると、その赤子は要求どおり嘘で始まり嘘で終わる話を語り、さらに帝王と大臣の悪だくみを糾弾した。
漁師は赤子を井戸の女に返すと、もとどおり女房と仲睦まじく暮らした。

「第四の警察隊長の語った物語」

その漁師と女房には利口者ムハンマドという息子がおり、帝王の息子と同級生だった。ムハンマドを妬んで張りあっていた王子の讒言を聞いた帝王は、教師を抱き込んでムハンマドを殺そうとする。ムハンマドはさっさと学校をやめて漁師になるが、はじめての漁でつかまえた一匹のホウボウが、自分は海の女王なので焼かないでくれと訴えたので、海に返した。
またも大臣の悪知恵により、ムハンマドは遠い遠い「緑の地」へ、姫君を王の妃として迎えに行く旅に出ることになった。件のホウボウの助言によって王に黄金の船を建造させたムハンマドは、海の女王の力によってまたたくまに「緑の地」に到着する。当地の王たちが黄金の船を見物する隙をついて、姫君だけを船にのせたまま出発したムハンマドだが、船のなかで若い男女は、なすべきとおりのことになった。
到着すると姫君は、結婚の儀式として堀に敷きつめた薪に火をつけ、炎のなかを渡ってくるようにと要求する。帝王らはまずムハンマドを渡らせてみるが、ホウボウから呪文を教えられていたムハンマドは、何もなかったかのように通り抜けてみせる。次に帝王、王子、大臣の三人が炎のなかに飛び込むと、彼らはそろって灰になってしまった。
姫君と結婚したムハンマドは新たな帝王となり、父母を呼び寄せて幸せに暮らした。

「第五の警察隊長の語った物語」

機嫌がよければ怒らず、怒っていれば喜ばぬ銘の印象を手に入れるよう帝王から命じられた大臣は、あるアラビア人の長老の娘ヤスミーンが掘った「苦にせよ楽にせよ、およそあらゆる情はアッラーより我らに来たる!」という銘の印象を持ち帰った。帝王はヤスミーンを迎え、妻とした。
しばらくするとヤスミーンは体調を崩したので、海辺の別荘で休んでいると、ある漁師が銅の瓶を網ですくいあげる。彼女が瓶を欲すると漁師は口づけを求めるが、それを見ていた帝王は怒り、漁師を殺してヤスミーンを放逐した。身一つでさまようヤスミーンは親切な商人に助けられるが、銅の瓶は魔法の瓶で、開けると毎回なかから見事なごちそうと踊る女白人奴隷があらわれ、女奴隷たちは大金の入った財布を投げ渡して戻っていくのである。やがて彼女はその金で宮殿を建て、移り住んだ。
ヤスミーンを追放したことを後悔し、旅に出て探していた帝王は、みごとな宮殿に住んでいるものがいることと、そのものが魔法の瓶を所有していることを知った。王侯に扮したヤスミーンは、瓶を欲しがる帝王に、釜を掘らせれば譲り渡す、と伝える。帝王が尻を出したのを見て爆笑したヤスミーンが正体を明かすと、帝王もまた笑い、ふたりは仲直りした。

「第六の警察隊長の語った物語」

ある帝王の娘ダラルは、頭に虱がいるのを見つけて油の大甕のなかに入れた。そのまま忘れて月日がたち、王女が十五歳になったとき、虱が巨大に成長して甕を割った。帝王は虱の皮をはぎ、正体を言い当てたものにダラルを娶らせるとふれを出した。言い当てられなかったものは首をはねられ、虱の横に皮となってかけられたが、四十人の人間が皮になったとき、ついに言い当てるものがあらわれた。見事な青年はダラルを自国へ連れ帰ったが、じつのところその夫は、おそろしい食人鬼だったのである。
食人鬼はあの手この手で妻が自分の秘密を漏らさないか試すが、あるとき叔母の姿にばけた食人鬼に対し、ついに本音を吐いてしまった。自分を食べる前に浴場に行かせてくれと頼んだダラルは、物売りの老婆と入れ替わって逃走し、ある国にたどりつき、その国の王子と恋におちて結婚した。
白羊にばけて後宮にもぐりこんだ食人鬼は、ダラルを拉致する。自分を食べる前に厠に行かせてくれと頼んだダラルが厠で魔神に祈ると、女魔神があらわれて食人鬼の睾丸を蹴り、一撃で殺してしまった。女魔神は、そのかわりにエメラルドの海で一杯の水をくんでくれとダラルに頼む。魔神の息子の病気を治すのに必要だが、それは人間ではないと汲みとれないのだ。水を汲みとったダラルだが、水がかかったために、腕にエメラルドのしるしがついた。
さてエメラルドの海には衡り人がおり、常に水の量をチェックしている。盗んだものを探していた衡り人は、ダラルの腕のしるしをみつけると、彼女をエメラルドの帝王のもとに連れ帰った。ダラルの美しさを見た帝王は結婚を求めるが、彼女には夫がいるため、似たものとして彼女の娘をエメラルドの帝王に娶らせた。

「第七の警察隊長の語った物語」

藁のなかに隠れていた泥棒が放屁のためにつかまった。わざと放屁したのだと言い張る泥棒に、なぜ自分のためにならぬことをするのだと問い詰めると、自分のためではなくあなたのためにやったのだと答えた。警察隊長は泥棒を放免してやった。

「第八の警察隊長の語った物語」

子供がうまれた竪笛吹きが、一文無しだったため物乞いしに行こうとすると、鶏一羽と卵を拾った。するとユダヤ人がやってきて、法外な値段で卵を買うと、毎日生んだ卵を二十ディナールで売る契約を交わした。竪笛吹きはどんどん財を築いて裕福になり、子供が学校へゆく年齢になったころ、決してユダヤ人に鶏自体を売らないよう妻に言いつけると、ヘジャズへ巡礼の旅に出た。
ところが妻は、大金に目がくらんで鶏を売ってしまう。ユダヤ人はその場で鶏を締め、肉を煮るように妻に言いつけ、肉がひとかけでも欠けたら腹を断ち割って取り戻すと伝えた。ところが学校から帰った息子は尻の部分をつまみ食いする。ユダヤ人の目的はその尻の肉だった。少年は逃げだして旅に出たが、尻の肉の霊験で大力を得ていたため、ユダヤ人にみつかるが一発で男を叩き殺してしまった。
帰り道に迷って立ち寄ったある町の姫君も力自慢で、打ち負かしたものを夫にするとふれを出し、負けたものの首を切り落としていた。これに応じた少年は、王女と互角の戦いを演じる。しかしその力に不審を感じた医師団により体内の肉を取り出されると逃げ出し、魔法の絨毯の所有権を争っている集団のいるところに出くわす。言葉たくみに絨毯を巻き上げた少年は、それに乗って宮殿へ戻り、肉を取り戻して王女をさらいカーフ山の頂上に降ろすが、こんどは王女に絨毯を奪われ、山頂にとりのこされる。長い旅のすえもとの王宮にたどりついた少年だが、その途中、魔法のなつめやしの実を手に入れていた。
なつめやし売りに扮した少年が王女に黄色い果実を食べさせると、王女の頭から角が生え、周囲の壁にしっかりと彼女をつなぎとめてしまった。次に少年は医師に扮し、赤いなつめやしの粉を飲ませると、角はきれいに消え去った。功績により王女を妻とした少年は、正体をあかし、互角の力を持つ王と王妃としてその地を治めた。

「第九の警察隊長の語った物語」

なかなか子供が生まれない女が、亜麻の匂いを嗅いだだけで死んでしまうような子でもいいから、と祈ると娘が生まれ、シットゥカーンと名づけられた。娘が十歳のとき、王子がシットゥカーンの姿を見て恋をする。ある老婆の仲立ちで彼女は亜麻を紡ぐ習い事をすることになったが、亜麻が指の肉と爪のあいだに入ると、ぱったりと倒れてしまう。老婆は両親を言いくるめて死んだ娘を河の中に立てた亭に安置させ、そこへ王子を引き入れる。死体の指に亜麻があることに気づいた王子がそれを引き抜くとシットゥカーンは息をふきかえし、二人はそこで愛を交わした。
四十日後、王子は大臣を宮殿に連れ帰るためにその場を後にするが、途中で引き返して、また三日をシットゥカーンとすごす。それが何度か続いたとき、行ったり来たりする王子を不審に思った彼女が出ようとする王子の姿を盗み見ると、それに気づいた王子は、別れを告げて二度と戻らなかった。
嘆くシットゥカーンは指輪をみつけるが、それはスライマーンの指輪で、こすると魔神があらわれた。彼女は魔神に、王子のそばに御殿を建てることと、いっそうの美しさを得ることを望んだ。王子は御殿にいる美女を見ると、母親を通じて結婚を申し込む。王子が死んだとふれさせて自分の御殿の庭に体を安置することを条件に承諾したシットゥカーンは、逆に死者となってあらわれた王子をからかい、許した。

「第十の警察隊長の語った物語」

嫁を探す旅に出た王子は、韮を切っている農夫の娘を見初め、国に帰って韮国の王女を妻にむかえると宣言した。王妃が娘を迎えにいくが、娘は手に職のあるものでなければ結婚しないという。王は国中の組合長を呼び出して、一人前の職人にするにはどのくらいかかるか聞く。皆数年と答えるが、もっともひかえめであった機織りの職人は、一時間で可能だと答え、見事な機織りの技を伝授する。王は機織りを組合長のさらに長とし、王子はぶじに韮王女を妻にした。

「第十一の警察隊長の語った物語」

ある国の王子がうまれたとき、一頭の仔馬が生まれたため、王子と馬はともに成長した。歳月がたち、父王は女奴隷を後妻にむかえたが、この女には愛人のユダヤ人医師がいた。密会に邪魔な王子を毒殺しようとするが、馬が王子にそれを教えたため事なきを得る。失敗の原因が馬であることを知ったユダヤ人らは、まず馬を亡き者にしようと、その心臓を薬として王に所望する。王子は馬を連れて国を出奔し、馬と別れると、他国に至って庭師の水車係として働きだした。
その国の六番目の王女は水車係の若者に恋をし、姉らとともにハンカチを投げて夫を決めるよう王に求める。姉たちはいずれも気に入った若者たちの上にハンカチを落とし、六番目の王女もまた、目当ての若者にハンカチを落とす。六番目の王女の夫が貧しい水車引きであることを知り、王は病気になるが、その治療のため熊の乳が必要になり、夫たちが探しにいくことになった。王子は別れる際に渡されたたてがみを一本燃やして馬を呼び出すと、その力を借りて熊の乳を入手し、本来の美々しい若者の姿になって戻った。正しい乳を持ち帰った素晴らしい騎馬の若者が水車引きと同一人物だと知った王は、結婚を許した。
その後王子は軍勢を率いて自国に戻るが、父王はすでに亡くなり、国は女奴隷とユダヤ人医師のものとなっていた。王子は両人を捕らえ、串刺しの刑とした。

「第十二の警察隊長の語った物語」

子供のできない王と王妃に、あるマグリブ人が長男を自分に渡すことを条件として飴を渡すと、たちまち夫妻には三人の王子ができた。十年後、約束どおりマグリブ人は長男ムハンマドを連れて行き、三十日のあいだに魔法書を解読するよう言いつけて、できていなかったら片腕を切り落とすと宣言し姿を消す。最終日、解読できていないことに絶望していた王子は庭を散歩し、木に吊り下げられている少女を見つけて解放する。少女はマグリブ人に捕らえられたある国の王女で、魔法書をムハンマドに教えると、解読はできていないと報告するように言った。
マグリブ人は宣言どおりムハンマドの右腕を切り落とすと、もう三十日で解読できなかったら今度は首を切り落とすと言い残して再び行ってしまう。少女は三枚の植物の葉を取り出すと、これが魔術を完成されるためにマグリブ人が探しているものだと言って一枚をムハンマドの腕に貼ると、腕はもとどおりくっついた。そしてもう一枚の葉を揉むと二頭の駱駝があらわれ、ふたりはそれに乗ってそれぞれの国へ帰った。
帰ったムハンマドは、駱駝を市場で売れと宦官長に命じ、ただし綱は決して売らないようにいいつけた。しかし宦官長はうっかり綱も一緒に売ってしまい、それを買ったハシーシュ売りが駱駝に水を飲ませようとすると、駱駝はたらいの中に体ごと入って消えてしまった。ハシーシュ売りが騒いでいると、王子と王女を居ってきたマグリブ人があらわれる。そしてハシーシュ売りの手元に残っていた綱を買い取るが、それは何でもつかまえることができる綱で、王子はその魔力で捕まってしまう。
王女の国に至り、綱を噛み切って逃れたムハンマドは、庭園に柘榴の実となって姿を隠した。マグリブ人は帝王に面会し柘榴を求めるが、実がマグリブ人の手に降れるとはじけ、種の一粒に隠れていた王子は、隙をついて姿をあらわし、マグリブ人を剣で刺し殺す。王女の言葉によって、ムハンマドが彼女を助けた恩人だと知った帝王は、ふたりを結婚させた。


つづく。