uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

龍臥亭事件(上)(下) / 島田荘司

龍臥亭事件〈上〉 (光文社文庫)

龍臥亭事件〈上〉 (光文社文庫)

龍臥亭事件〈下〉 (光文社文庫)

龍臥亭事件〈下〉 (光文社文庫)

御手洗の留守中に霊感娘二宮佳世の依頼を受けた石岡は、岡山まで同行することになった。占い師の助言によって、埋まっているはずの手首を掘りに行くのだという。佳世の霊感にしたがってたどり着いた先は、山奥の寒村貝繁村に存在する龍の体を擬したもと旅館、龍臥亭である。
主人の犬坊一男に宿泊交渉をしているとき、大きな爆発音とともに火の手が上がり、滞在していた箏曲家菱川幸子が密室で頭を銃弾に貫かれ死亡。関係者としてなしくずしに滞在することになった石岡たちは、敷地内で埋められた手首を発見する。それは数か月前にバラバラ死体として発見された菱川幸子の師匠、小野寺錘玉の体の一部であった。
さらに龍臥亭では、ダムダム弾を使用した猟銃による殺人事件が連続して発生。いずれも死体が盗まれてバラバラにされ、昭和七年に発生した猟奇事件の見立てと思われる残酷な細工を施されて再発見される。
佳世を東京に戻し、ひとり残った石岡は、御手洗の助言により単独でこの難事件に臨むことになった。調査をすすめる石岡は、昭和十三年に発生した都井睦雄による虐殺事件の因縁が、今も貝繁村を覆っていることをつきとめる。

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やればできる子じゃん、島田荘司。『異邦の騎士』以来に読む価値ありの作品。

津山三十人殺しが大きなモチーフとなっている。都井睦雄を実名で登場させ、凶行に至る経緯や事件経過などもほぼ事実どおり。終盤では文庫200ページを割いてドキュメンタリー的に都井睦雄を描いている。史実の登場人物をフィクション部分の登場人物とリンクさせ、過去に起こった日本最大の大量殺戮事件の解明が、事件の鍵となる作り。

津山三十人殺しを扱った作品といえば、まず思いつくのは『八つ墓村』だ。日本ミステリ界に燦然と輝くビッグタイトルだが、特にオマージュ的な関連はない。献辞は高木彬光および神津恭介宛て。島田荘司高木彬光に私淑しているようなので、特に深い意味はないだろう。この後島田荘司は実録犯罪方面に力を入れてゆくようなので、このモチーフの選択は、興味の対象の変化が作品に影響しただけのようだ。そういえば前作も実在のエリザベート・バートリを扱っていた。

この作品には大きな特徴がもうひとつある。エキセントリックな名探偵に振り回される著述者、ワトスン役の石岡君が大活躍していること。ついに石岡にもモテ期が。今回御手洗はまったく登場せず、わずかに一度手紙で助言したのみだ。事件は最初から最後まで石岡の手で解決される。御手洗ファンにはものたりないかもしれないが、これはこれで成立している。むしろ御手洗シリーズは、御手洗の存在が邪魔なんじゃないかとさえ思える、落ち着いた作品に仕上がった。とかく設定が現実離れしがちなので、石岡くらいがちょうどいい。

あと蛇足ですが、ある人物の本名には笑った。最後にネタかまされた。いや大真面目な読者サービスだろうし、ここで笑う俺がおかしいのだけど、笑っちゃったもんはしかたない。