uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

幽剣抄 / 菊池秀行

幽剣抄 (角川文庫)

幽剣抄 (角川文庫)

影女房

若殿に稽古をつける際、手加減しなかったために職を失った抜刀術の達人榊原久馬。偏屈ながら人望だけはあるこの男、周囲の人たちから仕官の口や、男やもめの後妻の周旋などを受けるが、断り続けている。だがこのところ、久馬の周囲に女の気配が…
といってもその女、この世のものではなかった。昨今世間を賑わす辻斬りに斬られ、仇を討ってもらおうと久馬に取りついた、幽霊だったのだ。

茂助に関わる談合

夜中に弟が訪ねてきた。弟の家にやった下男の茂助が、この世のものではなかったため暇を出したという。

這いずり

人間嫌いで終始むっつりとし、だが仕事だけはできる勘定方の地次銀兵衛。不祥事を起こして職を追われることになったが、これまでの功績を盾に断固として拒否する。藩では討っ手を差し向けたが、意外に腕の立つこの男、ひとりの両足をすっぱり断ち斬り、大怪我を負いながらも姿を消した。
しばらくして、地次の屋敷に「出る」という噂が立つ。まず忍び込んだコソ泥が数人、いずれも両足を切断されて死亡。さらに、調査に向かった探索方も被害にあう。

千鳥足

千鳥ヶ淵という沼がある。むかしある武将が、そこで追っ手に捕まって首を斬られたため、首のない武者の亡霊が出るなどの噂がある沼だ。
このところ、その千鳥ヶ淵で騒ぎが持ち上がっている。酩酊した武士が沼にはまって溺れ死ぬ事故が立て続けに発生したのだ。調査に駆り出されたのは居合いの達人、大辻玄三郎。

帰ってきた十三郎

美人ではあるが、どうにもそりが合わない兄嫁候補の世津。だが部屋住み次男坊である宵宮良介は、世津からの直接の依頼を断れなかった。
以前世津は、若殿の近習だった進藤十三郎と交際していたのだが、十三郎は江戸で剣の修行をすると言って藩を出たきり行方不明になった。それから曲折あって宵宮家との縁談が決まったのだが、そのあとになって十三郎が世津の周囲に姿をあらわすようになる。その姿は、すでにこの世のものではないように思われるという。

子預け

見知らぬ女が、ご当主の子ですと言って預けていった赤ん坊。はじめは冷やかな態度だった女房だが、すぐに子供を世話するようになる。そして、子供が来た日から、当主は毎夜悪夢にうなされるようになった。

似たもの同士

傘張り浪人陣吾行久は、飲み屋で多人数に囲まれていたやくざ者の才助を助けて以来、ときどき才助から仕事を斡旋してもらうようになっていた。用心棒的な仕事が多く、本人は押しとハッタリだけで「やっとうの方はからっきし」ととぼけているのだが、実際のところはかなりの腕前である。
あるとき、多額の金で請け負った用心棒仕事を仕上げたあと、陣吾は上等な着物を来た武士から対決を迫られる。仕事ぶりを聞いて陣吾の腕を見込み、腕試しを仕掛けてきたのだ。浅見と名乗るその男は、次の日陣吾の長屋を訪ねてきて、自分と同等の腕前を持つ男を斬ってもらいたいと依頼する。

稽古相手

はじめて行ったはずの上野で、初対面のはずの他藩の剣士と突然斬りあい、相打ちで死んだ男の、女房が話した内容。
藩内に敵なしの使い手であった夫は、いつもひとりで稽古を行っていた。だが、あるときから、何者か好敵手が稽古相手になっているらしい言動をしはじめる。

宿場の武士

行き倒れていたところを宿場の仲居に拾われた、廻国修行の武士水森大助。仲居の給金から食住を提供されるかたちで宿に居候を決め込んでいたが、あるとき終生の師と仰ぐに足る剣士と出会う。
だがその剣士は、尋常のものではない。もう四十年も前から、ふらりと宿にあらわれては一室に篭もり、六日めに姿を消すことを繰り返している。その姿は、はじめのころから少しもかわらず、三十歳前後の壮年のままだった。

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おもしろいじゃねえかコノヤロウ。

自分にとって菊池秀行は吸血鬼ハンターで止まってるわけですよ。ゲッワイエンタフですよ。たぶんその曲じゃないけど。
時代物書いてるのも知ってたけど、でも菊池秀行でしょー?中二病こじらせた系のダークファンタジーの人でしょー?なんて思ってたわけですよ。いやーおもしろい。というか、そうだ忘れてた。時代物と中二病こじらせた系ネタの相性のよさを。だいたいもうアレですよ「ぼくのかんがえたさいきょうの剣士」とか出てきますから。

タイトルどおり、ホラー系の短編集。わりとコミカルな冒頭の「影女房」でぐっと心を掴まれ、続く「茂助に関わる談合」「這いずり」で心底ぞっとする。構成もうまいと思うなあ。

ほかの作品も粒ぞろいで、飽きのこない短編集でありました。シリーズで続いているらしいから、残りを読むのが楽しみだ。