uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

この不思議な地球で 世紀末SF傑作選 / 巽孝之・編

この不思議な地球で―世紀末SF傑作選

この不思議な地球で―世紀末SF傑作選

スキナーの部屋 / ウィリアム・ギブスン

サンフランシスコベイブリッジ不法滞在者たちの住処になっていた。アメリカの不安定な政情のなか残留を許された彼らは、全世界から注目されながら橋の上に二次的構造物を建造し、そこからワイヤーをぶらさげてブロックを吊りさげ、立体的な空間を作り上げた。老スキナーの部屋は、第一タワーのてっぺんにある。

われらが神経チェルノブイリ / ブルース・スターリング

エイズウイルスのRNA転写システムを逆手にとり、画期的遺伝子治療技術を手に入れた人類。だがその負の側面として、麻薬を体内で合成する機構を直接人間のゲノムにすり込む、ウェットウェアが横行していた。コカイン生成ゲノムを見つけるのは難しかったため、あるハッカーが代替として開発したのが、樹状突起成長ゲノムである。

ロマンティック・ラヴ撲滅記 / パット・マーフィー

RLS─ロマンティック・ラヴ・シンドローム。「恋に落ちる」のはウイルスによる感染症だった。発見者である女性化学者の尽力により、人類はついにこのウイルスの影響から逃れることができた。

存在の大いなる連鎖 / マシュー・ディケンズ

自己増殖しながら猛威をふるうコンピュータウイルスの脅威。「バグ」と呼ばれるウイルスは、DNA複製とそっくりの手段を使って対象物に侵入する。いまや世界中のコンピュータがウイルスに支配されつつある。

秘儀 / イアン・クリアー

カッパドキアヨハネスの伝記。貧しい出自だった彼は、雇われた市場監督の屋敷の地下室で多くの本を盗み読んだ。順番や関連などまったくない濫読である。そのことが彼の神学論の基礎となった。

消えた少年たち / オースン・スコット・カード

売れない作家だったわたしは、妻と三人の子、そして妻の腹にいる四人目を連れて田舎町グリーンズボロに引っ越した。それから、長男の様子がおかしくなる。学校に行きたがらず引きこもり、架空の友人たちと遊ぶようになった。その子たちの名前は、グリーンズボロで多発している子供行方不明事件の当事者たちのものだった。

きみの話をしてくれないか / F.M.バズビー

官能剤をキメて屍姦宿に繰り出した三人。商品は若くして死んだ女たちだ。

無原罪 / ストーム・コンスタンティン

エイズへの恐怖から肉体的接触の欲望を失った人々。ソフトウェアポルノが隆盛し、子供は人工授精で作られるようになり、無原罪派が幅をきかせるようになった。ドナはそんな世界のセックスアイドルで、最初の処女出産で生まれた子供のひとりだった。

アチュルの月に / エリザベス・ハンド

沖天政府が管理する宇宙ステーションHORUSでは男と女は厳格に隔離され、女児抹殺が奨励されている。ライシスの密教がかなりの影響をもたらしており、教義では男と女の逆転がその対立を終わらせるのだとされ、改宗した女はホルモン剤などで男化をすすめている。
そんなステーションに、鵠があらわれた。性奴隷の一種で、鳥と人のハイブリッドだ。

火星からのメッセージ / J.G.バラード

NASA復権をかけて遂行された有人火星探査計画。ヒーロー・ヒロインとして帰還した五人の宇宙飛行士たちだったが、なぜか宇宙船の中から出てこようとしない。いくら外から働きかけても、明らかに自分たちの意志で出てこないのだ。


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サイバーパンク以降の作品をあつめた巽孝之によるオリジナル短編集。SFマガジン掲載作品のよせあつめっぽい。

「世紀末SF」と冠しているが、一貫したテーマ性はあまり見えない。書かれた時代を反映してか、エイズウイルス、ジェンダー問題を扱った作品が目立った。前世紀末にそういう空気があったことは確かなので、その点では確かに世紀末かも。作品ひとつひとつはそれなりにおもしろいのだが、まとめて読むとあまり強い印象にはならなかった。

単品として気に入ったのは『スキナーの部屋』『秘儀』『火星からのメッセージ』あたり。特に『秘儀』はいい。すごくいい。思索SFの名小品。ボルヘスとの類似を指摘する解説に納得。この著者早世しちゃったんだな…惜しいことだ。