uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

日本怪奇小説傑作集(1)

日本怪奇小説傑作集1 (創元推理文庫)

日本怪奇小説傑作集1 (創元推理文庫)

茶碗の中 / 小泉八雲

結末の不明な話。
ある大名の家来は、茶を飲もうとして、見知らぬ若侍が茶の表面に写っているのを見る。不気味ではあったがぐいっと一息に飲み干すと、その晩、件の若侍が大名屋敷に押しかけてきた。うろんなものと斬りつけると、それは壁を抜けて消えていった。

海異記 / 泉鏡花

波高い外房の漁村。船頭の妻は、幼い娘を抱いて、荒波に出て行く夫の帰りを待つのを常としていた。ある日、夫の留守中に、娘を嫁にすると宣言している子供が訪ねてくる。ふだん気の強い子供が、夫の船に乗って泣き出したという話を聞いていた妻は、そのことを子供に聞いてみる。子供は、おそろしい海の怪異の話をはじめた。

蛇 / 夏目漱石

大雨の日、川魚漁に出た叔父と甥。渦がまく川の中を「獲れる、獲れる」とつぶやきながら歩いていた叔父は、おもむろに渦の中に手を突っ込んだ。

蛇 / 森鴎外

出張の折、信州の豪家に宿を得た学者。その晩、家では通夜が行われており、同時に狂女の声が聞こえてくる。問わずとも語りだした家僕と当主の話。
発端は嫁姑の確執である。食事の際に嘉言善行の話を家族で行うことを日課としていた姑だが、そんな偽善の話は聞きたくないと、嫁がはげしく反発したのだ。

悪魔の舌 / 村山槐多

詩人仲間の、容貌魁偉な友人から届いた奇妙な電報。かけつけてみると、友人はすでに自殺した後だった。電報の文面を解読してみると、指し示す場所から遺書のような手記がみつかった。そこには彼の異食癖に関する恐るべき告白が記されていた。

人面疽 / 谷崎潤一郎

アメリカ帰りの女優は、自分が出演しているフィルムの存在を知った。アメリカで撮影されたものだが、女優はその映画に出演した記憶がない。ストーリーは以下である。
ある芸妓が米国人水夫と駆け落ちをするのだが、その際に醜い乞食の手を借りた。芸妓に岡惚れしていた乞食は、見返りに芸妓の体を求め、水夫は許可する。しかし芸妓がかたくなに拒んだため、騙されたと怒った乞食は海に身を投げて死んだ。それから芸妓のひざに乞食の人面疽が浮かびあがった。

黄夫人の手 / 大泉黒石

長崎の新地街は、日本人は寄り付かないシナ人の廓で、その中心に、猥雑な不気味さをたたえる一角があった。中学生の藤三は、シナ人の黄塵来と友人になり、たびたびその一角へ通うようになる。そのうち塵来の伯父という人物が藤三を訪ねてきて、次のように語った。
塵来は日本人の母親「やや」とは血のつながりがない。塵来の本当の母親は、黄婦人という、湖南にある湘潭という地で名高い女盗人である。塵来が幼いころ、盗みが露見した黄婦人は処刑されたが、そのとき役人は、黄夫人の屍骸から手首を切り落とした。

妙な話 / 芥川龍之介

ぱったりと戦地の夫から手紙が来なくなった女は、いっとき精神の安定を失っていた。女の周囲には、たびたびひとりの赤帽が現れ、夫の消息について話を交わしていたが、赤帽はいつもふらりと現れてはいつのまにか姿を消し、女は赤帽の顔をどうしても思い出すことができない。

儘頭子 / 内田百間

女を紹介するという話でのこのこ出かけていった。女の家で食事を食べていると、やけに顔の長い旦那と、その弟が帰ってくる。なし崩しに旦那の弟子になることになり、儘頭子という号をつけられた。

蟇の血 / 田中貢太郎

よく素性の知れない女と同棲しようとしている男。
海岸へ散歩に行くと、おかしな様子の女をみかける。自殺でもするのではないかと声をかけると、女は彼を、姉が住んでいるという家に引き入れた。姉だという女は男に伽を求め、帰ろうとする男を無理に引きとめて、強要しようとする。

後の日の童子 / 室生犀星

毎夕、家を外からながめている、鳴らない笛を持った童子。父親は毎日童子を家に迎え入れ、母親と引き合わせる。

木曾の旅人 / 岡本綺堂

中仙道が寂れていたころの軽井沢で、宿に居合わせた杣が話した、不思議な話。
ある夜、ひとりの旅行者が杣の家の明かりを頼って、訪ねてきた。酒や食物を振る舞い、宿を求める旅行者だが、杣の息子や、友人の猟師が連れてきた犬は、旅行者を異常に怖がった。

木曾の旅人 / 岡本綺堂

中仙道が寂れていたころの軽井沢で、宿に居合わせた杣が話した、不思議な話。
ある夜、ひとりの旅行者が杣の家の明かりを頼って、訪ねてきた。酒や食物を振る舞い、宿を求める旅行者だが、杣の息子や、友人の猟師が連れてきた犬は、旅行者を異常に怖がった。

鏡地獄 / 江戸川乱歩

レンズやプリズム、鏡などに異様な執着を示す男は、学校を卒業すると就職もせず自宅の裏庭に研究室を建てて引きこもり、奇妙な実験を繰り返していた。

銀簪 / 大佛次郎

主人の妾に手を出して江戸を追われた男は、大坂に出て若後家を食い物にした。死んだ亭主が残した財産を使い果たし、無一文になってふたたび江戸にもどる道中、男はついてきた女が邪魔になり、殺して海へ突き落とす。そのかたわらには、女がつけていた銀の簪が落ちていた。
数十年後、ぱったりと女遊びが落ち着いた男は、新政府の御用商人として大成功していた。

慰霊歌 / 川端康成

鈴子の家を訪ねると、花子がやってきた。霊媒師の鈴子は、花子が現れると気を失う。わたしは花子と言葉を交わした。

難船小僧 / 夢野久作

乗った船が必ず沈むといういわく付きの少年が、船に拾われた。船員らは少年を降ろすよう要求するが、変人で発明家でもある船長は、非科学的であると意に介さない。船員たちは、あわや暴動というところまで激していたが、ある日炭運び人夫が足りないという話になり、荒くれ者の機関員が少年を機関室へ連れ去っていく。それ以降、少年の姿を見たものはなかった。
船はそのうち、霧に巻かれてアリューシャン列島の島まで漂流する。

化物屋敷 / 佐藤春夫

弟が離婚して家を引き払うことになり、預けている荷物の行き場に困った。出入りの青年らに引き取らせ、荷物といっしょに下宿を借りるとこになったが、その下宿はどことなく陰気で、そのうち住人たちは精神に変調をきたすようになる。

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日本の怪奇短編小説アンソロジー。何編かは既読。

ストレートな怪談、人間の狂気を題材にしたもの、幻想小説などが並ぶ。はっきりとした落ちをつけるものと、背中が薄ら寒くなるような模糊とした決着のものに分かれる。この種のあいまいさを持つ作品が多いのは、日本怪奇小説の特徴かもしれない。一神教徒が住む国と、八百万の神々が住む国の民族性の違いではないか。その点、小泉八雲が冒頭いきなり落ちのない話をはじめるところが興味深い。

個人的に、より興味を覚えるのは、オーソドックスなホラーよりも、狂気を描いた作品である。異彩を放っているのは、やはり江戸川乱歩だ。この時期の乱歩の短編小説は、どう見てもあたまがおかしい(最大級の賛辞)。だが、これほどの巨大な才能も、中期以降は自己模倣をくりかえして凡庸な小説しか書けなくなっていく。唯一無二であるクリエイターの旬の時期というのは、短いものだ。