uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

日本怪奇小説傑作集(3)

日本怪奇小説傑作集 3 (創元推理文庫)

日本怪奇小説傑作集 3 (創元推理文庫)

お守り / 山川方夫

団地の自分の家に入っていった男がいる。続いて家に入ってみると、男はソファに座って新聞を広げ、普通に妻と受け答えをしている。その男は、単に家を間違えて入ってしまっただけで、顔も姿もそっくりだったことから妻も気づかなかったようだ。

出口 / 吉行淳之介

自ら進んで軟禁されている男は、見張り役の男に断って車で散歩にでかけた。たどりついた町には入口のないうなぎ屋がある。近くの飲食店のものに聞くと、うなぎ屋は出前専門で、兄と妹の夫婦が営んでいるという。

くだんのはは / 小松左京

芦屋の家を空襲で焼け出された幼いころのわたしは、以前のお手伝いがいま奉公している屋敷に、しばらく預けられることになった。その家は戦争とは無縁な雰囲気で、食べ物にも困っていない。二階には病気の娘がいるらしいが、姿を見たことはなかった。

山ン本五郎左衛門只今退散仕る / 稲垣足穂

稲生平太郎というものが比熊山へ肝試しに行った後、平太郎の家にさまざまな怪異がおこるようになった。周囲のものが心配して泊り込んだり、噂を聞いた祓い屋などが訪ねてきたりするが、いっこうに怪異はおさまらない。

はだか川心中 / 都筑道夫

車に乗って温泉地へやってきた一組のカップル。しかしどの宿も、彼らを見ると青い顔をし、満室なので泊められないと断ってくる。

名笛秘曲 / 荒木良一

山奥の寒村、大手村に隣接した土地に流れ者らが居つき、新村と呼ばれていた。そこに笛の名手がおり、大手村の娘と新村の若者を弟子としていた。師匠はその死にあたり、死ぬ瞬間にしか吹くことを許されぬ、かならず破滅をもたらす秘曲を伝える。
一方、この土地はいったん凶作になると備えなしには生きていけぬ土地である。やがて凶作が訪れると、新村のものらはたちまち飢えてしまう。

楕円形の故郷 / 三浦哲郎

毎週毎週休みになると、アパートが見える公園を訪れる青年。そのアパートには、いっしょに田舎から出てきた女が住んでいる。合図を出しておいたときは訪ねていいという決まりに従って、毎回合図を確かめに来ているのだ。公園にはおでん屋台のおやじがいて、工場の事故で指を失った青年に話しかける。おやじは盆栽を趣味にしていた。

門のある家 / 星新一

ある見知らぬ家の前に出てしまった男。すると家の門が開き、男を主人として迎え入れた。男はそのまま、その家の主人の役をつとめることになった。

箪笥 / 半村良

土地の老婆が旅人に話した不思議な話。ある漁師の家で、子供のひとりが夜な夜な箪笥の上に上がるようになった。いくら叱りつけてもなおらない。そのうち他の子供も上るようになり、とうとう漁師以外の家族全員が箪笥の上で夜をすごすようになった。

影人 / 中井英夫

失踪した義姉の行方を探してくれと兄から頼まれ東北地方を旅する男。10万円の旅費と先代行きの切符を渡され、野兎翁作のこけしを探している。そんな男に接近してきた宮下という若者は、義姉がのこした手紙の暗号文解読のヒントを与え、姿を消した。

幽霊 / 吉田健一

幽霊を追い求めて全国を探していた男は、ある宿でついに幽霊に会った。しかし困ったことに、幽霊はだんだん他の人にも見えるようになっていく。

遠い屋敷 / 筒井康隆

友達の家で夕食を振舞われた子供。すっかり暗くなり、山道を帰っていくのはいやだなあと思っていると、座敷を通っていけといわれる。山の上にある友達の家と、ふもとにある自分の家は、ふすまで区切られた連続した座敷の部屋でつながっているのだ。

縄─編集者への手紙─ / 阿刀田高

どうしても書けずに逃亡した小説家が編集者に宛てた手紙。むかし彼が旅をしていたとき、おなじ宿に泊まっていた女が奇妙な頼みごとをしてきた。ほんの少しでもいい、眠っている間、見張っていてくれと。男に捨てられ、自殺するつもりで旅に出てきた女は、縄に魅入られてしまったのだ。

海贄考 / 赤江瀑

妻と心中し、だが自分だけ蘇生してしまった男。男は助けてもらった漁師の家に、そのままやっかいになることになった。その家は土地で「エビスの土屋」と呼ばれ、奇妙にえびす、つまり水死体と縁がある家である。

ぼろんじ / 澁澤龍彦

茨木某という家に武勇優れた兄弟がいた。弟の智雄は美しく柔和な顔立ちながら腕が立ち、数人の暴漢に襲われている娘を助けたなどの逸話があった。
戊辰の折。兄は彰義隊に投じてそのうち戦死してしまうが、ノンポリの智雄は戦争に引っ張り出されるなど面倒と、女装して旅に出てしまう。一方、助けられて以来智雄に焦れる娘は、逆に男装して男を探す。娘は道中で、ぼろんじと名乗る不思議な虚無僧と出会った。

風 / 皆川博子

兄が2階に住まわせた女は、鳥の中身を取り出し、作り物に変える。中身はそのまま庭に捨てた。やがて兄は女と結婚し、わたしは庭から敵意を向けられる。

大きな姉 / 高橋克彦

父が死んだとの報せを受け、気が進まないながら実家に戻ってきたわたしを迎えに来たのは、よりによってサキ姉だった。
サキ姉は年の離れた兄の嫁で、子供のころわたしは彼女によく遊んでもらった。わたしは彼女が好きだった。そして、彼女の左目をつぶしたのも、わたしだ。

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日本編ラストの一冊。現代作家編ですな。故人が多いけど。SF作家が多いのも特徴か。『くだんのはは』『門のある家』あたりはなつかしいなあ。今読んでも十分おもしろい。

しかしまあ、現代風ホラー作品集というわけでもなく、どちらかというとテクニカルな小説作法による名作が揃っている感じ。短編だとどうしても構成の妙が腕の見せ所になってくるから、仕方ない面はあるかもしれない。しかし寄せ集め感はどうしても出る。

目を引いた作品としては稲生物怪録そのままの『山ン本五郎左衛門只今退散仕る』、民俗学に材をとり落ちが効く『海贄考』、澁澤の『ぼろんじ』。『大きな姉』も民俗学題材だな。あとはSF作家群か。というかこれら、自分の読書傾向そのままだな。自分は自分であり、切り口が変わっても好むものは同じってことか。

日本怪談小説の祖、小泉八雲からはじまった作品集だが、時代を追うごとに小粒間が増してくる気がする。若干竜頭蛇尾に終わっているかも。もう一工夫ほしかった。