- 作者: 高村薫
- 出版社/メーカー: 毎日新聞社
- 発売日: 2012/11/28
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年の瀬もせまった十二月二十四日、歯科医一家惨殺事件が発生した。上層部権力争いの余波で四係に左遷されていた合田雄一郎は、応援として捜査本部に名を連ねることになった。事件はかなり凄惨なもので、歯科医師夫婦は鈍器で頭部を潰されて1階で殺害、2階では十三歳の女子と七歳の男子が電気毛布に包まれたままめった打ちにされており、発見が遅れたことと電気毛布の温度から、遺体の腐敗が進んでいた。
足跡が無造作に残されていたことや、犯行に使われたエアロつきの派手な車が下見段階から目撃されていることなど、ずさんな計画であることが見て取れたが、事件の解明は意外に難航する。やがて廃棄された車が見つかり、そこに残された指紋から、捜査線上にあがっていた井上の関与が決定的となり、また、逮捕歴のある戸田の存在が浮かび上がる。
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レディ・ジョーカーで笑撃のラストを迎えた合田シリーズ。あれには笑ったなあ…その続編が出ていることを知ったのはいつだっけ、もう一年くらい前じゃなかろうか。書店で手に取りながら「あのオチの後にどのツラ下げて続編を」「もうこの形式の小説は書かないんじゃなかったか」などなど、いろいろ脳内で突っ込んだものでした。
書店から帰宅してとりあえず図書館予約し、そのまま忘れていたところ、いまごろ予約図書準備完了のメールが。しかも上下巻いっぺんに。おいおい、今の俺に高村薫の二段組上下巻を二週間で読めってのか。ずいぶんハードル高いぞ。しかし来てしまったものはしかたない、読みかけの本をすべてうっちゃって読みましたよ、きっちり二週間で。
タイトルが示すとおり、カポーティのインスパイヤ。未読。読むべき本リストには入っているのだが、ノンフィクションなのでなんとなく手がついていない。そのため、カポーティとの比較はできません。
上巻前半は犯人視点。粗暴、浅慮、想像力の欠如。虞犯少年がそのまま成長したような若者たちだ。しかし彼らには、一家四人惨殺などという、明らかに死刑相当である事件を起こす動機など、かけらもない。なぜ一家を殺害するに至ったのか?そこが警察・検察にとっても、読者にとっても最大の興味となる。
後半になると視点が合田に移る。ここから上巻終了までは、これまでのシリーズと同様。警察の地道な捜査で徐々に容疑者が絞り込まれていく過程を丹念に描写。そして、犯人二人があっけなく逮捕されたのちの下巻で、取調べによる動機の解明をはかる。
高村薫自身が「この形式(読者らから「ミステリ」とカテゴライズされる形式、の意だと思われる)は書かない」と言っていたのに合田シリーズを続けた理由がわかった。なるほど以前のシリーズとは違っている。上巻までは同じだが、下巻から明らかに異なるものを描き始めている。生と死、だ。特に理由もなく殺された一家。特に理由もなく殺し、その果てに国家に殺されることになるであろう若者。それらを合田の一歩引いた視点から見つめている。
紙面に掘り込むようにびっしりと情景が書き込まれる高村薫作品は、読むのに体力を使うところが難点だが、こういうテーマを扱うには合っている文体だろう。いったん引き込まれるとぐんぐん読み進めていける。あいかわらず最近も読書時間があまりとれないのだが、高村作品にしては短い時間で読み終わることができた。
なお、本作の前に『太陽を曳く馬』という作品があり、そちらがシリーズ四作目になります。順番飛ばしちゃった。てへ。そして『太陽を曳く馬』は福澤彰之シリーズの三作目でもあるという罠。
全部読めってことか。望むところだ。